DACユニットの検討(構想編1)

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構想編1

今まで手つかずだったDACユニットを製作するために事前検討を行います。

テーマ選択の背景

前回、Hi-ch用6N6PA級プッシュプルアンプが完成し、予想以上の変化があったのでその後もいろんな楽曲を楽しんでいます。普段はあまり聴かない80年代のJ-PopのCDも引っ張りだして聴いてしまいました。NS-1000Mマルチアンプシステムのブロック図を眺めながらいろんな楽曲を聴いていましたが、今まで手つかずのブロックが2つあると改めて認識ました。

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それに先立ち、「DCパワーアンプ電源改良(まとめ編3)」(2019-11-19)で紹介しましたが、それまで使用してきたCDプレーヤーが壊れてしまい、マランツのCD-6006/FNを購入しました。

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この時本当は、外部クロック入力ができるCDトランスポートとして使用可能な機種を購入したかったのですが、短期間で見つけられた該当仕様のモデルはあまりにも高価なため、断念して上記に落ち着きました。まだあきらめた訳ではありません。今回は手つかずだったDACユニットを外部クロック入力等拡張性も考慮して自作を考えてみる事にしました。本記事のアイキャッチ写真は現行システムのDAC-1000です。

目標仕様

現状使用しているDAC-1000よりもスペックダウンさせるわけにはいきません。とは言え高望みしても実現性が低くなるので、最低限実現すべき仕様を書き出してみました。

・デジタル領域でCold信号生成するバランス出力

・外部クロック入力対応が可能

・搭載DACが現行システムの物よりもより高性能なDAC ICの採用

上記の3項を譲れない仕様として、検討を進めてみます。

DAC

DAC ICの情報を全く持っていない事から、ぼぼゼロスタートの状況です。普通に考えて、高性能なオーディオ用DIPパッケージのDACなどは当の昔になくなって入ることは容易に想像できます。どうしたものかと、ネット検索をしてみると出来合いのDAC基板がいろいろと販売されている事がわかりました。これらの基板を流用できないか調べてみる事にしました。

ES9038

下記はアマゾンで検索した基板です。

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搭載DACアメリカのESS Technology社製ES9038Q2Mです。メーカーのHPから特長を拾ってみました。

・32bit 2-channel DAC

・dynamic range 129dB

・120dB THD+N

高性能DACのようです。但し、回路図も資料も、私自身の知識もないので改造対応に二の足を踏みました。

AK4495SEQ

これもアマゾンで検索した基板です。

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搭載DACはAKMのAK4495SEQです。これも特長をメーカーHPから拾ってみました。

・32bit 2-channel DAC

・dynamic range 120dB

・101dB THD+N

この基板は、AK4495SEQを2個搭載し、オリジナル仕様でバランス出力をサポートしている点が大きな特長です。この商品も回路図や資料がなく購入を躊躇してしまいました。アマゾンで販売しているものは、基板単体販売でサポートなしの印象です。

PCM1792A

この基板は、共立エレショップがデジットキットブランドとして販売しているものです。

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搭載DACはTI(BB)のPCM1792Aです。DACの特長をメーカーHPから拾ってみました。

・24bit 2-channel DAC

・dynamic range 127dB

・108dB THD+N

・マルチセグメントDAC方式 (上位6bitマルチビット、下位18bitがΔΣ変調1bit)

ブランド名が示すとおり、完成品ではなくキット商品です。またDAコンバータ独立実験基板として販売されている事から、回路図を含めた資料が公開されています。現在の私にとってのハードルは上記3モデルの中で一番低いと考えられるので、この線で検討を進めてみたいとおもいます。

 

つづく(構想編2)

High-ch用アンプ製作(まとめ編4)

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まとめ編4

今回の設計と製作の総まとめを行います。

今回の設計について

製作前1000Mマルチアンプシステムのブロック図

Mid-chとHi-chは同一設計のEL34ppA級アンプを使っていました。

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Hi-ch用EL34ppA級アンプ#1周波数特性

前々回の記事の特性比較は、Mid-ch用の#2アンプとの比較となっていました。Hi-ch用の#1アンプの方がやや高域特性が劣っています。

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設計製作の方針

今回の設計製作の背景と方針は以下のとおりです。

・EL34pp#1アンプはNon-NFBの為に帯域的20KHzに対して余裕のない状況

真空管の選択と回路定数見直しにより広帯域化する

回路

真空管

初段は双三極管12AY7を、終段は双三極管6N6Pを選択しました。

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真空管特性比較表

現行アンプで使っている真空管と、今回採用検討した真空管のパラメータ比較表です。

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6N6Pppアンプ回路図

真空管HPアンプの回路を流用し、Non-NFB化と回路定数を見直しています。

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出力トランス

出力トランスは春日無線のKA-5-54Pを東栄変成器のトランスケースSに納めて使用しました。

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電源

電源回路

電源回路は真空管HPアンプのものを流用しました。電源トランスを春日無線のKbm100F2に変更しています。

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電源基板

電源基板も真空管HPアンプ用電源実装を踏襲しています。

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アンプシャーシ

シャーシ選定

サイズに迷いましたが、結局現行アンプと同じリードMK-380に決めました。

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フロントパネル

EL34ppアンプ#2の設計を踏襲しました。

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リアパネル

リアパネルもEL34ppアンプ#2の設計を踏襲しました。

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シャーシ

EL34ppアンプに比べて電源トランスが小さくなった事と、搭載真空管が2本少ないため余裕を持った配置となっています。

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配線

後でトラブルが起こっても追っかけやすいように被覆の色を選択して、直角な敷線を心掛けました。すっきり仕上がったとおもいます。

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トラブル

発振

真空管アンプで初めて発振対策を行いました。写真上は終段の2つのプレート出力とその差信号をモニタしています。写真下はC電源整流波形と発振波形ですが、両者が同期している事がわかります。

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対策

真空管のヒーター回路にインダクタを入れて対策しました。写真上が検討時の状態で、写真下が最終的な実装状態です。

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特性

ゲイン

マルチアンプシステムで使用しているアンプのゲイン比較表です。

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周波数特性

下記がL-ch/R-chの周波数特性の測定結果です。30KHzまでフラットでカットオフは約80KHzです。

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従来のHi-ch用アンプEL34ppアンプ#1と特性比較を行いました。比較しやすいようにゲインを正規化しています。

 

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アンプ外観

搭載真空管が少ないので、すっきりしています。

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部品表

対策部品等を追加した最終版です。

電源部品表

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アンプ部品表

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まとめのまとめ

今回のアンプをシステムに組み込んだ印象は、予想以上に変化が大きかった為、さらに広帯域のアンプの設計にトライしてみたいと思います。

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2月に構想をスタートし、約3ヶ月強、おつきあいいただきありがとうございました。次回は今までとは趣向を変えた設計を構想します。お楽しみに!って私がですが・・・

 

おわり(まとめ編4)

High-ch用アンプ製作(まとめ編3)

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まとめ編3

Hi-ch用の6N6Pppアンプが完成したので音を聴いてみます。

音聴き1

初めに、このアンプの個性を確認するためにロクハンフルレンジスピーカーを接続して音を聴いてみました。使用したスピーカーはFostexの16cmフルレンジユニットFF165WKを専用のエンクロージャに納めたものです。

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普段はマルチアンプシステムで聴いているので、フルレンジスピーカーの音は新鮮です。1000Mの上に置いての試聴の為、低音は不利ですが、ユニットのセンターが耳の位置となるため、逆に高音は有利な設置状態です。スピーカーの能率が92dB/W(1m)という事もあり、出力2Wでも十分な音量で鳴らす事ができました。ピアノ伴奏のみの女性ボーカル曲の定位がいい感じでした。大編成の演奏の楽曲はフルレンジスピーカーでは逆に荷が重い印象です。このスピーカーで音を聴いた限りでは素直な音の印象です。一通りの楽曲を堪能したのでマルチアンプシステムへ組み込みます。

マルチアンプシステム組み込み

組み込む前に現状のシステムの音を記憶するために、しばらく音楽を聴きました。下記が現状システムのブロック図です。

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音が耳に馴染んだところで、Hi-ch用アンプとしてシステムへ組み込みます。最初はチャンネルデバイダーのレベル合わせを行います。下記が現状システムおよび今回製作したアンプのゲイン一覧表です。

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この表からHi-chの出力レベルを組み込み時に2.2dB上げる必要があります。方法はTEST CDを使って10KHz/0dBの正弦波をリピート再生させ、チャンネルデバイダ出力をオシロスコープでモニタして、現状よりも2.2dB(1.29倍)レベルが上がるボリューム位置にマーキングをします。

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上の写真は調整時のものです。チャンネルデバイダ出力を、12chアッテネータの入力でモニタしています。下記がオリジナルの状態の波形モニタ結果です。

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レベルは1.5Vpp丁度でした。このレベルを1.93Vpp(1.29倍)となるようにHi-chのボリュームを調整します。

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チャンネルデバイダのHi-ch用ボリューム位置に剥がせるシールを貼ってマーキングしました。

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Mid-chにも2つのシールが貼られていますが、現行のEL34ppアンプ#2用とEL34sglアンプ用の2つのボリューム位置を示しています。これで組み込み完了です。組み込み後のシステムのブロック図は下記となりました。

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音聴き2

普段聴いている楽曲をはじから再生してみました。

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音が明らかに違います。音の印象を順不同に箇条書きします。

・音場の透明感が増した

・音場の奥行き感が増した

・打楽器の鳴り物が生き生き鳴る

・弦楽器がつややかに鳴る

ビブラフォンの響きがいい

Mid-ch用アンプの入れ換え時の変化に比べて格段に違いが聴きとれました。楽曲によってはLow-chが負けている感じがします。正直予想外の印象です。さらに普段あまり聴かないCDも引っ張り出して、時間も忘れて聴き入ってしまいました。この効果を体感してしまうと、初段にSRPP回路を適用した一層広帯域なアンプを設計してみたくなりました。今後の課題リストに改めて追加します。次回は今回の設計製作の総まとめを行います。

 

つづく(まとめ編4)

High-ch用アンプ製作(まとめ編2)

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まとめ編2

初段の出力部以外にカットオフ周波数に影響を与えているパラメータがないか念のため検証を行います。

他回路の影響確認

初段出力部のポール以外の影響確認も行いました。

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初段のグリッドに発振対策として2.7KΩを入れています。前段のバランス変換ボリュームユニットの出力部には2KΩのボリュームを使っていますが、このインピーダンスを考えると発振対策の2.7KΩは無視できません。試しに2.7KΩをショートして周波数特性を確認しました。

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数値上は若干の改善はありましたが、グラフにすると全く差はありませんでした。初段のグリッド抵抗は2.7KΩに戻しました。初段起因なので効果は期待できませんが、終段のグリッド抵抗もショートして確認してみました。

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今回も数値上は若干の改善はあったものの、グラフにすると全く違いは見えません。やはり初段出力部ポールの改善が必要です。現状簡単に適用できるアイデアがないので一旦検討はここまでとして、現行のEL34ppアンプと周波数特性を比較してみました。比較用にゲインは正規化しています。

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フラットの帯域が20KHzから30KHzにあがっています。それに伴ってカットオフ周波数も約50KHzから80KHzに上がっています。この違いだけでも、設計製作した甲斐があったとおもいます。初段出力部の特性改善は継続して考えていきたいとおもいます。Rチャンネルの特性も測定しましたので参考に掲載します。

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周波数特性測定時に発覚した位相反転を出力トランス1次側の配線変更で修正しました。

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この変更を回路図に反映させました。同時に細かな間違いや表示漏れも追加して最終版のアンプ回路図としました。

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最後にインシュロックで配線を束線して今度こそ完成です。

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EL34ppアンプと比べて部品点数が少なく、シャーシ内部がだいぶスッキリしています。

EL34ppA級アンプ#2確認

本格的な音出しの前に、現在スコーカーチャンネルに使用しているEL34ppA級アンプ#2の電源を念のため確認します。下記がその電源回路図です。

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今回のアンプ同様にC電源を-5Vの三端子レギュレータで生成しますが、その出力には0.47uFのフィルムコンデンサしか入れていません。今回の製作で発覚した電源回路の発振の有無の確認を行います。久しぶりにシャーシをあけてみました。今回の製作よりも真空管の数が多く、シャーシ内に密集度が高いです。

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電源オンしてC電源出力をモニタしました。

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案の定、約33KHzで発振していました。黄色が電源出力で、青が終段出力管出力です。念のため出力管と差動出力の観測も行いました。

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差動出力へは大きな影響はありませんが、約33KHzで変調がかかっている状態です。女性ボーカル楽曲のソロ部を音量を上げた際に音が濁っていたのはこれが原因だったようです。手持ち在庫からオーディオ用の33uF/50V品を選定してC電源回路に取り付けました。

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取り付けた場所は配電用の平ラグです。この対策で無事発振は止まりました。この修正を反映して電源回路図を改版します。

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C12として33uF/50Vの電解コンデンサを追加しています。合わせて過去記事の修正もしておきます。次回は最初にロクハンフルレンジで音聴きをしたあと、1000Mマルチアンプシステムに組み込んで音聴きをしたいとおもいます。

 

つづく(まとめ編3)

High-ch用アンプ製作(まとめ編1)

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まとめ編1

製作と調整が終わったので周波数特性の測定を行います。

動作確認

周波数特性の測定前に、動作確認を行いました。確認は10cmフルレンジスピーカーに接続して音楽を聴きます。入力は、USBDACのバランス出力をバランスボリュームユニットで受けて、その出力を製作したアンプに入力します。写真にはスピーカーは写っていませんが、fostex FE103ENを使った自作バスレフ方式のものを床置きしています。

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ボンネットには保護用の段ボールを貼ったままですが、発熱が少ないので短時間の使用では問題ありません。アンプの上がバランスボリュームユニットです。念のためスピーカー出力をオシロでモニターしています。ひとしきり聴きましたが、いい感じです。

周波数特性測定

動作確認ができたので、今回の製作で一番のキーポイントの周波数特性の測定を行います。発振器の出力を、バランス変換ボリュームユニットに入力してバランス信号に変換し、アンプに入力します。アンプ出力には8Ωのダミー抵抗を接続します。ゲインは、オシロスコープで入力と出力を観測し、それぞれのレベルから算出します。

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入力は0.2Vppの正弦波として、周波数を10Hzから1MHzまで振りました。写真は1KHz測定時のものです。

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出力レベルは1.9Vppです。ゲインは19.6dBで、ほぼねらいどおりです。信号はHot入力とHot出力を観測しているにもかかわらず、反転しています。後で出力トランスの一次側を反転させて対応したいとおもいます。また10Hzの出力波形はかなり歪んでいました。使用した出力トランスのサイズでは仕方がないとおもいます。それも周波数を15Hzに上げると改善します。まずはL-chの測定を行いました。(本記事のアイキャッチ写真は100KHz測定時の入出力波形)

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HotとColdの測定を行い、合成した結果を総合のラインで示しています。ん~、カットオフ140KHzの目標でしたが達していません。80KHz弱というところでしょうか?原因を絞る為に、初段の周波数特性を測定してみました。結果は以下のとおりです。

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初段で特性が決まっているように見えます。トータルの周波数特性と初段の周波数特性をゲインを正規化して比較してみました。

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肩特性を比較すると、初段の方がカットオフが低くなっています。これは測定のためのプローブの容量の影響でしょうか?

初段出力部影響の検討

確認の為に試算をしてみました。アンプトータルのカットオフ周波数が初段の出力抵抗と終段の入力部の容量で決まっていると仮定します。具体的には初段出力部にプローブを当てた時にカットオフ周波数が上記の結果のように下がるのか検証しました。下記が検証用のラメータです。

初段の出力抵抗rp=18kΩ
アンプトータルのカットオフ周波数:約80KHz
初段測定時の初段カットオフ周波数:約60KHz
オシロスコープのプローブ入力容量:20pF
初めに終段入力部の容量Cinを求めました。
Cin = 1/(2π x 80K x 18k) = 110pF
次に初段にプローブを当てた時のカットオフ周波数を求めてみます。
fcm = 1/(2π x (110p+20p) x 18k) = 68KHz
初段のカットオフ測定結果60KHzと近い値となりました。設計編2では、終段の入力容量を65pFで見込んでいましたが、おそらくバイアス抵抗回路の配線容量、カップリングコンデンサとシャーシ間の容量などで45pF加わった事で、カットオフの設計値自体が約80KHzとなってしまったと考えられます。下記は設計編2の試算式です。

fcd = 1/(2π x 65p x 18k) = 140KHz

(構想編2と設計編1と2を参照)さらに帯域を広くするためには初段にSRPP方式を導入して、初段の出力インピーダンスを下げるか、無帰還を諦める必要がありそうです。やれやれ。次回は念のため他の部分の影響の確認を行ってみます。

 

つづく(まとめ編2)

High-ch用アンプ製作(製作編17)

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製作編17

注文したインダクタが届いたので、発振対策の続きを行います。

発振対策2

前回の記事で発注したインダクタが届きました。

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2品種がラジアルリードタイプで、1品種がトロイダルコアタイプです。実装を考えると、1番小型なラジアルリードタイプで対策したいところです。改めて電源回路図を掲載します。

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検討をどちらのチャンネルで行うかを決めるために、現状で終段の真空管を片チャンネルのみとして発振波形を比較してみました。

■Lチャンネル発振波形

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■Rチャンネル発振波形

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Rチャンネルのヒーター回路からC電源を生成している事からRチャンネルの方が状況は悪いと予想しましたが、結果は逆で、Lチャンネルの方が状況が悪い事が確認できました。検討はLチャンネルで行います。初めにLチャンネルヒーター回路のホット側にインダクタを取り付けてみました。取り付けたインダクタは今回購入した中で1番小型な10uH品です。

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残念ながら状況はあまり変わりませんでした。さらにヒーター回路のGND側にも追加しました。

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今度は期待しつつ、電源オン。おっ、発振消えました。

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良かった。続いてこの状態で外したRチャンネルの終段真空管を取り付けて状況を確認しました。

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やっぱりな結果です。めげずに、Rチャンネルのヒーター回路にもインダクタを取り付けます。トータルで4個取り付けました。

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期待しつつ電源オン。やりました、発振とまりました。しばらく様子を見た上で、電源オン・オフも繰り返しましたが問題ありません。これを対策とします。4個のインダクタの実装をどうしたものかと暫し考え、インダクタの天面に両面テープを貼ってシャーシ接着し、且つ、リードとともに固定する事にしました。

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見た目も最低限許せる範囲で実装ができました。ヒーター回路へのインダクタ挿入は特性への影響もないと考えられます。最終的な対策回路は以下のとおりです。

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初段電流調整

初段の電流設定用の定電流ダイオードを20本購入した為、初段製作時に気になっていたL/Rチャンネル間の電流値のアンバランスの解消検討をします。参考に製作時の測定結果と回路図を改めて掲載します。

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Rチャンネルの定電流ダイオードを選別によって選定します。測定回路は、実使用状況に合わせました。

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地道に1本1本測定を行います。

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結果は以下のとおりです。あまり細かく分けても仕方がないので、小数点以下2桁目を四捨五入しています。

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後の事も考えて結果毎に分けて保管しました。

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1.0mA品から2本を取り出し、Rチャンネルの定電流ダイオードと交換しました。電源オンして、初段真空管の各ピンの電圧を再測定します。結果は以下のとおりです。

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いい感じに動作点が揃ったとおもいます。

終段真空管の選別

次はIp調整がしきれなかったRチャンネルの終段真空管を交換してみます。改めて前回の測定結果を再掲載します。

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RチャンネルのIpがボリュームをめいっぱい回しているにもかかわらず、プッシュプル間の偏差が10%以上残っています。何も考えずに、在庫真空管と交換してみました。バイアス調整用のボリュームを回しても、出力トランス1次側のドロップ電圧が変化しません。どうやらこの球は不良のようです。気を取り直して、さらに交換してみました。この真空管はちゃんと動作してます。今回はそこそこ調整できました。合わせてLチャンネル側も再調整をおこないました。

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これで調整も含めて製作は完了です。次回は周波数特性の測定を行います。

 

つづく(まとめ編1)

High-ch用アンプ製作(製作編16)

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製作編16

前回の記事で発覚した、発振対策をおこないます。

終段暫定調整

発振対策に入る前に、終段のバイアス電流を暫定的に調整します。前回確認した発振レベルであれば調整はできそうです。シャーシに取り付けたチップジャックを使って調整しました。

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最初にRチャンネルの調整を行います。電源オンして安定を待ってからB電源とプレート間の電圧を測定し、前回作成したIp調整用のシートに入力して電流値を算出します。Ipの設計値は20mAです。ボリュームの感度が思ったよりも低い為、電圧が注入されるゲート電圧をモニタしてみました。その結果片側のゲート電圧の調整回路が働いていない事がわかりました。バイアス調整用基板はボス2本で固定している為、端子台への配線時にドライバで基板に応力をかけてしまいハンダがはずれてしまったようです。怪しい箇所を再ハンダしたところ、正しく動作するようになりました。下記が暫定の調整結果です。

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Lチャンネルはそこそこ調整できましたが、Rチャンネルはボリュームをめいっぱい回しても調整しきれませんでした。カソード電圧を下げたくなかった為に調整範囲を小さくした事が原因です。とりあえずこのまま検討を進めて、発振対策が終わった時点で終段の真空管を在庫品と交換してみる予定です。

発振対策1

はじめに現状の整理をします。

・発振は初段だけでは起こらない

・発振周波数は約50MHz

・C電源出力とプレートで観測された

・C電源半端整流波形に同期して一定の期間発振する

改めて発振波形を掲載します。

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最初に対策の効果をわかりやすくする為に、Rチャンネルの終段真空管を取り外しました。

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先にLチャンネルに対策検討を行いますが、仮に効果のある対策が取れた場合に、Rチャンネルの影響で対策がマスクされてしまう事を防ぎます。感電に注意しつつ0.47uFのフィルムコンデンサを各所に接続して、発振波形の状態を確認しました。初めに効果が確認できたポイントは、バイアス調整基板の-5VとGND入力の端子台です。両端子間に0.47uFを接触すると発振波形はやや小さくなりました。早速、バイアス基板にフィルムコンを取り付けました。

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次に効果が確認できたポイントはC電源用の入力端子台です。ここに0.47uFを取り付けたところ、(本記事アイキャッチ写真参照)発振はだいぶ小さくなりました。

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この結果から、真空管内部のカソードとヒーター間の電気的な結合によりループが成立して発振していると考えられます。一旦この状態で取り外したR-chの真空管を再度取り付けてみました。ややや、改善した発振レベルが復活!さらに対策が必要です。

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改めて電源回路図をじっと眺めてみました。

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C10が上記の対策で追加したフィルムコンデンサーです。これ以上コンデンサによる対策はできそうにないので、インダクタをヒーター回路に入れてみる事にしました。早速秋月電子の通販ページを参照し、取り付けと50MHzに対するインピーダンスを考慮して下記の3種類を注文しました。

1)A823LY-100K(10uH/1.9A:3.1KΩ)

2)LHL13NB470K(47uH/2.8A:15KΩ)

3)トロイダルコイル(100uH/3A:31KΩ)

括弧内は部品仕様と50MHzインピーダンス値です。せっかく発注するので、初段の電流調整用に1mAのCRDを20個一緒に注文しました。次回は発振対策の続きと初段の電流調整を行います。


つづく(製作編17)