Hi-ch用トランジスタアンプ製作(製作編1)

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製作編1

部品発注を行い製作の準備を行います。

部品発注

発注の方針は、以下のとおりとしました。

・手持ち在庫を活用する

トランジスタは多めに注文して選別して使用する

・まとめて発注して送料を節約する

電源トランスはすでに注文・入手済みです。注文先は共立エレショップですが、一応まとめておきます。

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総額が7,500円を越え、決済がクレジットカードの為、送料が無料となりました。次はアンプ回路と電源回路部品の注文です。注文先は秋月電子です。

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初段のDual FETおよび関連部品は在庫があったため、今回は注文していません。コンプリメンタリトランジスタは、30ペア購入しました。秋月電子で総額が10,000円を越える事はあまりありませんでしたが、今回は越えた為、送料が無料になりました。コロナの影響によるものなのか、作業への影響はありませんでしたが、日曜日に注文して到着が翌週の土曜日と今まで経験がないくらい時間がかかりました。

2SC3422のhfe測定

今回の製作のコンセプトは、アンプの素の特性改善です。このためにまずは、コンプリメンタリ品の特性を合わせる為に、hfe測定を行います。最初は2SC3422-Yです。測定条件は、使用条件に合わせるのがベストですが、測定時に放熱が必要となり、安定にも時間がかかるため、発熱を抑えるために、Vec=4V, Ic=0.1Aとしました。測定時の消費電力は0.4Wなのでほんのり暖かくなる程度です。測定回路は以下のとおりです。

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Ib/Ic観測用の抵抗は、テスタで測定した値を使用します。測定の効率化の為に、エミッタに接続した抵抗値のドロップ電圧を1Vとしたため、測定時のコレクタ電流は、約0.102Aとしています。測定用のジグは以前に作成したものを使用します。測定環境は以下のとおりです。

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念のため、電源の過電流防止設定を0.2Aとしました。トランジスタを装着せずに電源オンして、エミッタ電圧を1V以下になるようにボリュームを調整します。一旦電源オフし、レバー式のDIPソケットにトランジスタを装着したら測定準備完了です。電源オンすると、メーター式のテスタの針が振れます。ボリュームを調整して1Vに合わせました。トランジスタの温度が上がる為、Ib/Icともに徐々に上がります。安定したタイミングでVrbをメモして電源をオフします。次のトランジスタを装着して同じ操作を繰り返します。若干の在庫と新規購入の30個の測定結果は以下のとおりです。

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トータル43個測定し、結果をhfeでソートしています。hfeの値は214~284の間に分布しています。ジャンパピンが不足していたため、負荷抵抗の電圧値に配線用電線のドロップ電圧も含まれる配線としたため、Icが想定よりも小さくなりhfeが大きく測定されている可能性があります。hfeの絶対値は問題とならないので気にしない事にします。

2SA1359のhfeの測定

続いてコンプリメンタリ品の2SA1359-Yのhfe測定を行います。測定回路を以下のとおりです。上記と同様に測定を行います。

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ジグは、ジャンパピンで回路変更できるようにしているため、接続変更のみ準備完了です。測定結果は以下のとおりです。

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トータルで46個測定しました。hfeは211~282に分布しています。分布はNPNに比べて大き目に寄っています。

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必要なコンプリメンタリペアが選別できるか心配です。

コンプリメンタリペア選別

今回はドライバと終段をこのトランジスタでまかないます。アンプ1台で2ペア必要となり、ステレオBTL分でトータル8ペア必要となります。測定結果からペアを抜き出してみました。

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トータル17ペアを選別しました。hfeの偏差の最大値は2.1%です。8ペアであれば一致ペアでまかなえます。次回は電圧増幅段で使用するトランジスタのhfe測定を行います。

 

つづく(製作編2)

Hi-ch用トランジスタアンプ製作(設計編4)

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設計編4

回路および部品を決定したので、シャーシの加工図面を作成します。

ボトムシャーシ加工図面作成

電源トランスと基板サイズ決定の為に、ざっくりとした図をかきましたが、本当に配置可能か確認します。確認方法は、ケースを仮組みして、そこに加工図を置いてみます。ケースは、現行のLow-ch用アンプの電源トランス外置き対応時に作り直した為、フロントおよびリアパネル以外は新品です。

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写真のとおり、フロントおよびリアパネルには必要な部品が取り付けられた状態となっていて、配置確認には好都合です。ケース1組を仮組みします。最初はヒートシンクを兼ねるサイドパネルに鉄製のフランジを取り付けます。

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ケース付属のネジは予備がないのでなくさないように注意します。取り付けたフランジを使ってフロントおよびリアパネルを取り付けました。

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変に力を加えると、菱形に変形するので注意して扱います。次にボトムカバーを被せてケースを正規の姿勢にします。そこへ作成済みの配置図を等倍で印刷し、外形にそって切り取ってボトムカバーへ置きました。

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両サイド手前側のエリアは、放熱器に取り付けるアンプ基板を想定しています。確認できる限りでは問題なく配置できそうです。せっかくなので部品を置いてみます。電源トランスは、在庫数が限られているとおもい、事前に発注しておきました。

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基板は予備の在庫が幸いありました。

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余裕はありませんが、配置できそうです。トロイダルトランスが収まるとなかなかいい感じです。これで作成済みのボトムシャーシの部品配置に問題ない事の確認ができました。作成済みの配置図をベースに加工図を作成します。修正点は以下のとおりです。

・不要なアンプ基板配置図の削除

・トランス、基板取り付け穴の追加

・必要な寸法の追加

作成したボトムシャーシの加工図は以下のとおりです。

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終段用のトロイダルトランスの取り付けはM5対応ですが、電圧増幅段用トロイダルトランスに合わせてM4としています。仮組みしたケースは一旦ばらして基板実装完了まで保管します。

サイドパネル加工図

サイドパネルには、アンプ基板と終段のコンプリメンタリトランジスタおよび温度補償用のトランジスタを取り付けます。取り付けのイメージは、現行のLow-ch用アンプと同じとします。

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変更点は、終段トランジスタをシングルコンプリメタリとするだけです。終段のトランジスタは、前方に移動した方が他部品とのクリアランスは取りやすいですが、NPNとPNPの温度バランスを考慮して、従来どおり前後方向の対象位置に取り付けます。他寸法は、現行Low-ch用アンプにほぼ合わせました。左右のパネルでアンプの取り付け位置が変わるため、それぞれ加工図を作成します。すべての取り付け穴は、M3マシンネジ取り付けとすつ為、下穴としてφ2.5の穴をあけます。上記を考慮して作成した加工図は以下のとおりです。

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サイドパネルは、L/Rで専用としましたが、パネルに実装するアンプ基板も同様とするかは頭の痛いところです。最低限、端子台の配置は左右の基板で考慮しないと組立性に影響します。次回は部品発注を行い、製作の準備を行います。

 

つづく(製作編1)

Hi-ch用トランジスタアンプ製作(設計編3)

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設計編3

電源回路を確定します。

終段用電源回路

シャーシ配置の関係で、72 x 47.5mmの基板に実装する必要があります。単純な全波整流によるコンデンサインプット電源ですが、オリジナルの回路は10,000uF/16V電解コンデンサを10個搭載しました。実装スペース上無理なので、改めて秋月電子のラインナップを確認してみました。オーディオ用電解コンデンサニチコンKW 33,000uF/16品が候補として見つかりました。サイズはφ25 x H50mmです。

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配置の工夫は必要そうですが、なんとか実装できそうです。ブリッジダイオードはオリジナルで当初採用したショットキーバリアブリッジダイオードD424SBS6 60V/4A品を選定しました。

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キーパーツは以上で選定完了です。回路図は電圧増幅段と一緒に後で作成します。

電圧増幅段用電源回路

この回路も72 x 47.5mmの基板に実装する必要があります。前の記事でも触れましたが、三端子レギュレータを使った定電圧電源とします。最初に平滑用の電解コンデンサを選定します。配置の関係で基板の短辺に2個並べて配置する必要があるので、φ20mmのものを選定しました。オーディオ用電解コンデンサニチコンKW 4,700uF/50V品です。サイズはφ20 x H40mmです。

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三端子レギュレータは定番のNJM7815FA/NJM7915FAを使用します。これで電圧増幅段用電源のキーパーツの選定は完了です。

電源回路図

上記で選定した部品を反映して回路図を作成します。基本回路はオリジナルの電源と同じです。

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終段用電源出力電圧は、オリジナルに比べてやや高くなりそうです。回路図上では+/-8.9Vとしています。電源ランプは、オリジナルの仕様に合わせて、コンセントインで赤が点灯し、スイッチオンで終段の電源が入り、緑の点灯に変わります。改造後の電源ランプ仕様(下記写真)よりも、こちらの方が気に入っています。

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改造後はコンセントインで赤ランプ点灯、スイッチオンでさらにスイッチ周りの青ランプ点灯です。

終段用電源部品配置検討

上記で決定した回路が想定した基板上に配置できるか検討します。入力は3極端子台です。出力は電源ランプ用に2極端子台と正相と逆相の終段および電圧増幅段用に3極の端子台が合計で4個必要です。ざっと並べてみました。

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配線の効率は悪そうですが、なんとか配置できました。

電圧増幅段用電源部品配置検討

この基板も入力は3極端子台で、出力は電源ランプ用に2極端子台と正相と逆相の電圧増幅段用に3極の端子台が2個です。これも同様に配置してみました。

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余裕はありませんが、わりとすっきり配置できました。三端子レギュレータには放熱器をつけていません。念のため問題ないか確認してみます。アンプ基板1枚あたり約15mA消費します。BTLで30mAとなります。三端子レギュレータへの入力電圧が21Vで出力が15Vなので、電圧のドロップは6Vです。従って消費電力は180mWとなります。三端子レギュレータの仕様書から放熱器なしの最大消費電力を確認します。

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上記のグラフから今回のアプリケーション上放熱器なしで信頼性上問題ない事が確認できました。次回はシャーシの加工図面を作成します。

 

つづく(設計編4)

Hi-ch用トランジスタアンプ製作(設計編2)

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設計編2

前回の検討結果に従ってアンプの回路図を作成します。続いて電源の回路検討を行います。

アンプ回路図

前回の検討結果を回路図に反映しました。

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変更点は以下のとおりです。

トランジスタ変更

 2SC1815-GR → 2SC1815L-BL

 2SA1015-GR → 2SA1015L-GR

 2SC3851 → 2SC3422

 2SA1488 → 2SA1359

・初段オフセット調整回路保護削除

・2段目差動Trバランス用にダイオード追加

・終段をパラレルコンプリメンタリからシングルコンプリメンタリ化

・電圧増幅段の電圧変更(+/-15V)

終段の電源電圧は、電源設計後に反映する予定です。

電源回路見直し方針

下記は、オリジナルのDCパワーアンプの回路図です。

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この回路をベースに見直しを行います。見直しのポイントは以下のとおりです。

・うなりの抑制を考慮する

 電源トランスの選定

・駆動力よりも余裕をもった配置を優先する

 平滑用電解コンデンサ容量の見直し

電源トランスの選定

改造後に不要となったCT付きの12V/5Aの電源トランスが余っていますが、うなりの悪夢が蘇る為、使用を見送ります。大容量のものは使った事はありませんが、共立エレショップで販売されているトロイダルトランスで唸りに悩まされた事がなかったので、今回採用検討してみる事にしました。早速販売ページを確認します。

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あまり大容量のものはありませんが、今回の用途に適したものが見つかりました。最初は終段用の電源トランスです。電源電圧から2次出力6V前後が要求仕様です。2次出力6.3V/1.6A x2と少し容量面では寂しいですが検討してみます。型式はHDB-25(6.3V)です。

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フットプリントは70 x 70mmです。アンプの終段およびドライバ段のバイアス電流の合計は約0.5Aです。モノラルBTL分で1Aなので、少し余裕はあります。次に電圧増幅段電源用トランスを選定します。電圧増幅段のアンプの消費電流は約15mAで、モノラルBTL分で倍の30mA程度です。今回は15V/0.2A x2のHDB-8(9V)を選定しました。

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フットプリントは65 x 65mmです。念のためシャーシに配置できるか確認を行います。図面は使用するケースHY133-23-23SSのボトムパネルの図面です。

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ボトムカバーの両サイドは放熱機能をもったサイドパネルに、前後はフロントリアパネルのフランジと干渉するため、部品の配置ができません。そのエリアを除いた部分が有効寸法として記載されています。有効寸法内に2つのトロイダルトランスが効率的に配置できるか確認しました。結果は以下のとおりです。

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問題なく配置できそうです。電源トランスは仮決定とします。

電源基板

電源基板は、電圧増幅段用と終段用の2枚構成とします。シャーシの空きスペースから秋月電子型番でCタイプ(72x47.5mm)に実装せざる得ません。上記で検討したシャーシ配置図に2枚の電源基板を追加配置してみました。

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両サイドの枠は、アンプ基板実装エリアです。サイドパネルにスタッドを立てて固定する前提です。余裕はありませんが、なんとか配置できそうです。次回は電源回路を決定し、2枚のCタイプの電源基板に必要な部品が配置できるか検討します。

 

つづく(設計編3)

Hi-ch用トランジスタアンプ製作(設計編1)

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設計編1

アンプ回路の設計から開始します。

アンプ回路設計方針

構想編でも説明したとおり、現行のDCアンプの回路をベースとします。

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駆動力よりも素の特性重視で見直す方針です。電圧増幅段の電源電圧は三端子レギュレータを使用する予定なので+/-15Vとします。終段は駆動力よりも高域の特性重視する為、パラレル構成をシングルプッシュプルに変更します。その他、昨今の半導体入手事情を考慮して半導体の見直しをします。

初段の設計

初段から見直します。入力はDual J-FET 2SK2145です。当時秋月電子で入手できるDual J-FET唯一の選択肢であったため、現状の入手性が気になり調べてみました。まだ販売されている事が確認できて安心しました。

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初段のバイアス電流は1mAの為、GRランク(Idss=2.6~6.5mA)を使用します。チップパッケージなので、変換基板を使ってDIPソケットに装着して使用します。次はカスコードおよび定電流源に使用している2SC1815の状況を確認してみます。オリジナルの東芝製のものはすでに販売終了となっていて、セカンドソースのUNISONIC TECHNOLOGIES製の2SC1815Lが販売されていました。現状使っているGRランク品(hfe=200~400)は在庫切れのため、BLランク品(hfe=350~700)を使う事にします。hfeが高いので良いように思えますが、コンプリメンタリの2SA1015LのBLランク品の扱いがない事が気になりました。

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最後はオフセット調整回路を見直します。半固定抵抗の信頼性を考慮して保護用に抵抗2本を追加していますが、今まで半固定抵抗でのトラブルはなかった事から、保護用の抵抗2本を省略します。これで初段の見直しは完了です。

2段目の見直し

2段目は単純な差動アンプです。片側は終段のバイアス調整用の回路が入っているため、差動アンプのコレクタ電圧がアンバランスとなっていました。どこまで効果があるかわかりませんが、反対側の回路にはダイオードを直列に4個挿入してある程度バランスをとる事にします。

ドライバ段と終段

終段はパラレルプッシュプル構成をやめて単純なプッシュプル構成とします。現行アンプで採用しているトランジスタは、価格と許容損失のバランスを考えて選定しました。今回は、入手性を含めて改めて選定しなおします。秋月電子で購入可能で、低周波増幅用で、コンプリメンタリ品のトランジスタを候補として選んでみました。

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現行のトランジスタは、許容損失と価格の面では良い選択ですが、ftが他トランジスタに比べて格段に低いです。ftが素の特性にどの程度影響を与えるかわかりませんが、今回はHi-ch用との事でft値も含めて選定し直します。BTL方式の終段に使用する前提で、2SC3422-Y/2SA1359Yに決めました。

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続いてバイアス電流を決めます。A級方式とするため、最大出力時のピーク電流の1/2に設定する必要があります。現状は2組のコンプリメンタリペアのため、片側0.38Aとしていましたが、今回は1組のコンプリメンタリペアとなるため、エイヤーで0.47Aとしてみます。この時のA級最大出力は以下となります。

8 x (0.47 x2 /1.41)^2 = 3.5W

現行の真空管Hi-ch用アンプの出力は1W以下なので、足りない事はないと考えます。この時の終段のトランジスタのコレクタ損失は以下となります。

8.6 x 0.47 = 4.0W

トランジスタの信頼性を考慮するといい線ではないでしょうか?次回は上記で決めた仕様を回路に落とし込んで、回路図を完成させます。

 

つづく(設計編2)

Hi-ch用トランジスタアンプ製作(構想編)

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構想編

Hi-ch用トランジスタアンプの製作構想をします。

構想開始の背景

久しくトランジスタアンプを製作していなかった為、作ってみたくなりました。直近で無帰還真空管アンプをHi-ch用に2台つくりましたが、高域の特性面では帰還前提のトランジスタアンプの方が圧倒的に良くなります。この特性の差が音に対してどのような影響があるか興味が沸いてきました。また、現行のLow-ch用のDCアンプの電源改良時にアンプのケースを作り直した為にアンプのケースが余っている事も製作の動機になりました。

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ケースはタカチのHY133-23-23SSです。組立時の外観は以下のとおりです。

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アンプ回路

ベースは、Low-ch用のBTL方式のDCアンプの回路とします。このアンプは、ウーハーの駆動力を意識して設計しましたが、Hi-ch用では駆動力よりも素の特性を重視したいと考えています。Hi-ch用アンプにDCアンプを使う事に違和感があるかもしれませんが、ツィーター接続時に保護用にフィルムコンデンサを直列に接続するつもりです。真空管アンプの場合は、出力トランスによってDCがカットされるので、保護用のフィルムコンデンサは入れていませんでした。下図が現行のLow-ch用アンプの回路図です。

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入力はデュアルのJ-FET差動方式で使用し、カスコード方式の差動アンプとして、初段のミラー容量による高域特性の劣化を防いでいます。2段目は、単純な差動アンプでドライバのバイアス設定回路をトランジスタで構成しています。終段はパラレルコンプリメンタリ構成にして、ウーハーの駆動力アップをねらいました。この回路をベースに設計編で具体的な回路設計を行います。

電源回路

電源回路もLow-ch用BTL方式のDCアンプの回路とします。このアンプはうなりの対策の為、運用途中で電源トランスを別筐体に移す改造を行いました。下の回路図は改造前後のものです。

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両者の違いは、終段用の電源トランスと、電圧増幅段用の電源回路です。オリジナルの電源トランス(東栄変成器J-125 12V/5A)は、汎用のもので価格は安いのですがうなりに悩まされました。

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改造後は別筐体とする事で、設置場所の工夫ができる事と、終段の電源トランスをさらに大容量化(東栄変成器J-1220 12V/20A)した事に伴い、うなりに強い構造のもになりました。

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この改造によりうなりはだいぶ押さえる事ができました。今回は駆動力の追求よりもうなりを重視して、電源トランスを採用したいと考えています。電圧増幅段の電源は当初、アクティブな動作を敬遠してトランジスタを利用したリップルフィルタ方式としましたが、その後の電源の検討の中で、安定化電源の方が好みの音がでる事を確認しました。現状は、オペアンプを誤差アンプとした電源としていますが、今回は実装スペースを考慮して三端子レギュレータを採用したいと考えています。

その他設計上の考慮点

オリジナルのLow-ch用アンプは、実装スペースぎりぎりにトランスや基板を詰め込んだ為、配線がやりにくく、その結果見た目もあまりよくありませんでした。

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今回は、余裕をもった実装を念頭に設計を行う予定です。次回は上記の方針を考慮して具体的な設計を行います。

 

つづく(設計編1)

赤外線リモコンの検討(まとめ編)

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まとめ編

改造が完了したDACユニットをマルチアンプシステムに組み込んで使ってみます。引き続き今回の改造のまとめを行います。

マルチアンプシステム組み込み

常用のNS-1000Mマルチアンプシステムに改造したDACユニットを組み込んで使ってみます。

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システムのボリュームは12chアッテネータで行います。搭載するリレーの数を減らす為、減衰量は-36, -29, -25, -21, -17, -11, -9, -6に厳選しています。この減衰量は1980年代のCDの録音レベルに合わせて設定しましたが、最近のCDの録音レベルは当時のものよりもかなり大きく、ステップがあらいポイントで使わざる得ませんでした。聴きたい音量がステップの間に入ってしまった際にリモコン操作で1dBステップで最大3dBレベルダウンできるようになり、使い勝手が向上しました。

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音量を我慢するストレスから解放された為、ここ2~3年の間に購入したCDを集中して聴いてしまいました。

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改造まとめ

今まで製作した機器には、市販製品にはあたりまえに付いているリモコン機能がありませんでした。今後の製作も考えて赤外線リモコン受信機能の実装をしてみたいと考えていたのが、今回の改造のきっかけです。使用したリモコンユニットは秋月電子から調達したarduino用赤外線キットです。

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リモコン、受信モジュールとハーネスの3点セットです。早々にサンプルコードを使って受信動作を確認しました。

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写真はサンプルコード実行中のarduino統合開発環境IDEのシリアルモニタ画面です。

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基本NECフォーマットですが、カスタムコードおよびデータコードの取り扱いが異なっていました。

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サンプルコードは、CPUの処理をほぼ100%占有する状態でした。写真の青のラインが受信処理中'L'となる信号です。受信後のわずかな時間のみ処理が解放されるのみです。

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最初はサンプルコードを改変してCPU占有率を下げる為に受信処理を割り込み対応としました。その結果受信処理のCPU占有率を格段に下げることができました。

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上記の写真は、青のライン'H'の時に割り込み処理(受信処理)を実行しています。次はDACユニットへの実装を考えて、使わなくなったHDMI切替機の切り替えモジュールの流用検討をしました。

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受信信号のAGC特性がキットの物よりもやや劣っていましたが、流用可能と判断しました。次は移植先のDACユニットの準備です。実装するリモコン機能は、アッテネーションに絞りました。以下がキーコード一覧です。

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次は実装先のソフトウェアを確認します。オリジナルのソフトのジェネラルフローは以下のとおりです。

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非常にシンプルな作りですが、機能拡張を考慮していない為、ソースはべた書き状態となっていました。そのコードを一部関数化して移植を行います。移植後のジェネラルフローは以下のとおりです。

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左の2列が基本フローで、残り5列が個別のフローです。この処理をソースに起こして単体動作確認を行い、問題ない状態となりました。続いてDACユニット自体の改造を行います。オリジナルのDACユニットのマイコン回路は以下のとおりです。

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この回路に受信モジュールを接続しました。

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PB4は、割り込み処理モニタとして残しています。外置きの受信ユニットの端子はφ3.5のステレオミニジャックです。接続用にリアパネルにジャックを取り付けました。

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arduino UNOへの接続は、バニラシールド基板に3極の端子台を実装して2芯シールド線で配線を行いました。

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これでリモコン機能実装完了です。今後の製作では、リモコン機能を標準化することができます。たった1000円の出費で、長期の夏期休暇(9連休)を含めて約1ヶ月間楽しむことができました。毎度ながらおつきあいいただきありがとうございました。

 

おわり(まとめ編)