無帰還広帯域真空管アンプ(構想編4)

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構想編4

前回確認した各段のゲインの計算結果を使って現行アンプの周波数特性をシミュレーションしてみます。この目的は今回設計する広帯域アンプの周波数特性のシミュレーション方法の妥当性の判断を行う事です。

現行アンプ帯域幅計算

現行アンプの回路図を改めて掲載します。

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まずは初段出力と終段入力部で構成される一次フィルタについて考えてみます。回路図を元に一次フィルタをモデル化してみました。

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Roは初段の負荷抵抗と真空管のプレート抵抗rpの並列値です。初段の負荷抵抗は回路図から100kΩ、初段真空管のプレート抵抗rpは前回の記事から20kΩとなります。まずは初段の出力抵抗に関するパラメータを整理してみます。

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Rgは終段真空管のグリッドに接続された抵抗です。終段のグリッドから見た初段の出力抵抗Zoは以下と考えられます。

Zo = ( rp || Rl || Ri ) + Rg ||は並列を意味する

この式に各パラメータを適用するとZoは18.7kΩとなりました。次に上記抵抗との組み合わせで一次フィルタを構成する容量についてまとめてみました。

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Cg、Cgaは終段の真空管のグリッド容量とグリッド-プレート間容量です。Cgaには終段のゲインによって入力電圧の(A+1)倍の電圧がかかる為、入力から見た容量はCga x ( A + 1 )となります。(ミラー容量)従って終段入力部の容量CiはCg + Cga x ( A + 1 )となります。表中の値は6N6Pの仕様書から拾った値と、前回の記事で算出したゲイン値です。上記の式を適用すると終段入力部の容量は47.2pFと算出できました。

現行機のf特シミュレーション

上で算出したZoとCiを使った一次フィルタのゲインを計算してみます。

Gain = ( 1 / jωCi ) / ( Zo + ( 1 / jωCi ))

= 1 / ( 1 + jωZoCi )

となります。ゲインの実効値は以下となります。

Gain = 1 / SQRT ( 1 + (2πfZoCi)^2)

ここでZo = 18.7kΩ、Ci = 47.2pFを適用して周波数特性のグラフを作成してみました。

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図は計算結果と、現行機アンプ製作時に測定した結果です。グラフに大きな開きがあります。どうしたものか・・・

出力トランスの影響

下記は採用した出力トランス春日電機KA-5-54Pの仕様です。

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周波数特性として60kHz -0.5dBと掲載されています。この特性をLRの一次フィルタと想定して影響を推定してみました。回路は以下のとおりです。

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この回路のゲインは以下のとおりです。

Gain = R / ( R + jωL )

= 1 / ( 1 + jω(L/R))

このゲインの実効値は以下のとおりです。

Gain = 1 / SQRT( 1 + (2πfL/R)^2)

この式にf=60kHz, Gain=-0.5dB (0.944)を代入してL/Rを算出しました。算出した結果を使って周波数特性をシミュレーションしてみました。

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図は上記算出結果と、先に算出した初段出力と終段入力部の一次フィルタの特性およびその両者を加算した結果をグラフ化しています。今回のアプリケーションは、4Ω出力端子に8Ω負荷を接続しているため、実際の結果とは異なる?事を頭におきながら結果を評価したいとおもいます。予想外に出力トランスの特性が影響を与えている事がわかりました。この総合特性と測定結果を比較してみます。

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だいぶ実特性に近くなってきましたが、まだ差があります。次回はこの差についてさらに検討してみます。

 

つづく(構想編5)