無帰還広帯域真空管アンプ(設計編1)

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設計編1

設計構想がまとまったので、実際に設計を進めていきます。

電源回路

前回選定したトランスとチョークトランスを使って電源回路を設計します。電源回路の設計を進めるに当たり、暫定で描いたアンプの回路図を再掲載します。

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初めに使用する真空管のヒーター電流を整理します。

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今回選定した電源トランスのヒーター巻き線は2A x2なのでヒーター接続の選択肢は広がります。現行のHigh-ch用アンプで発振に悩まされた事から、初段と終段のヒーター回路を別回路にします。-5VのC電源回路の電源は、負荷の軽い初段のヒーター巻き線から供給します。B電源回路は、前回の記事の基本回路を忠実に置き換えています。臨界電流を流す負荷抵抗は、入手性を考慮して仮設定しました。設計した回路は以下のとおりです。

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B電源回路の電源電圧が想定よりも下がってしまいました。チョークインプット電源方式は出力電圧がトランスの2次の定格電圧になると言われています。但し、負荷電流によるチョークトランスの電圧のドロップを考慮した結果です。

出力電圧 = 180 - 187 x 0.08 = 165 V

アンプ回路見直し

最初に初段の負荷抵抗のロードラインから見直します。

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上図は先にSPRR回路4負荷抵抗真空管用に描いたロードラインです。このロードラインはkrとバイアス電流により決まるため、電源電圧が変化しても変わりません。続いて初段のロードラインを再掲載します。

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このロードラインでは動作点のVpは75Vとしていますが、電源電圧が165Vに下がる為動作点の電圧も下がります。

Vp = 165 - 108 = 57V

初段のロードラインの動作点電圧を60Vとして描き直してみます。

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動作点のVgが-1Vとなってしまいましたが、ギリギリいけそうです。SPRR回路構成とする場合、さらに確認が必要な点があります。それは負荷抵抗に置き換える真空管のヒーター回路とカソードの耐圧です。12AY7の仕様書を確認してみました。

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+/-ともに90Vです。上記の初段のロードラインを見ると理論上カソードの電圧は150Vまで上がってしまいます。そこで実用状態について検証してみました。下の表はSPRR回路4のゲインの一覧表です。

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この表は未公表でしたが、SPRR回路4のゲインはSPRR回路3と同じため単純にコピーしたものです。今回のアンプのA級動作範囲は約0.6W/8Ωですが、余裕を見て仮に出力を1Wとしてその時の入力電圧を求めてみました。

1W時出力振幅レベル = SQRT( 1 x 8 ) x 1.41 = 4.0V(ピーク電圧)

アンプのゲインが10.5倍なのでその時の入力電圧は

1W時入力電圧 = 4.0 / 10.5 = 0.38V(ピーク電圧)

一方、初段のロードラインからはヒーターカソード電圧Max90Vをクリアする為にはVgを-2V以下に抑える必要がありますが、上記の計算結果から-1.38V(-1-0.38)以下とクリアできそうです。続いて終段のロードラインへの影響を確認します。

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このロードラインの見直しの影響は軽微です。電源電圧の変更に合わせて、終段のバイアス回路も見直します。従来、調整用ボリュームの接点不良を考慮して複雑な回路としていましたが、現行のHigh-ch用アンプ製作の際に調整しきれない真空管があった事と、いままでにボリュームの不良事例がなかった事から回路を簡略化する事にしました。この変更により終段管のVgの調整範囲は0V~0.5Vに拡大できます。逆にカソード電圧が少し下がるため、定電流回路の設計が苦しくなりますが誤差範囲と考える事にします。修正を反映した回路図は以下のとおりです。

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この回路図を元にさらに設計を進めていきます。

 

つづく(設計編2)