EL34シングルアンプ性能改善(製作編3)

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製作編3

プッシュプルアンプとの音の違いに関して実験をしてみます。その後、さらなる改善検討を行います。

高調波実験

前回シングルアンプとプッシュプルアンプの比較試聴をした結果、シングルアンプは音が厚く聴こえ、プッシュプルアンプははっきりくっきりした印象でした。この違いが何に起因しているか簡単な実験をしてみました。プッシュプルアンプのメリットの1つは偶数次の高調波歪が打ち消される点です。奇数次の高調波歪のレベルは変化しません。真空管の特性は、偶数次の歪みが大きいと言われているのでプッシュプル構成の効果は大きいと考えられます。そこで、2chの発振器をつかって正弦波に2次高調波と3次高調波を加算してその音を聴いてみました。信号の加算は、抵抗3本で簡単な加算回路をつくりました。

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加算信号をBTLアダプタでバランス信号に変換してアンプに入力してスピーカーで聴きます。基準信号は440Hzの正弦波(ラ)としました。

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基準信号と高調波信号のレベルバランスは、10:1(発振器出力レベル:3V vs 0.3V)です。最初に440Hzの正弦波を鳴らします。それに880Hzの信号を加算しました。

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2つの音として聞き取れますが、関連した音に感じられました。信号波形は以下のとおりです。

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赤の波形が加算信号波形です。次は高調波の周波数を3次に相当する1320Hzにあげてみました。加算波形は以下のとおりです。

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2次高調波加算時と同様に2つの音として聞き取れますが、私には関連した音として認識する事ができませんでした。高調波歪みは、次数が高くなるにつれてレベルが下がると考えられる為、2次高調波のレベルが一番高いと推定できます。この音(2次高調波)のレベルの差がシングルアンプとプッシュプルアンプの音の印象の違いに関連しているのでしょうか?私の発振器には位相調整機能があります。この機能を使って2次高調波の位相を変えて聞いてみたいと考えましたが、残念ながら思いどおりに機能せず試聴は断念しました。

さらに改良

周波数特性の改善に関しては、構想編で検討したレベルまでカットオフ周波数が上げられなかった為、何か他にやれる事がないか考えてみました。先のHigh-ch用無帰還真空管アンプ製作時に余った12AY7がある事を思い出し、初段真空管を変更する事で改善できないか検討してみます。現状の初段管は12AX7です。ロードラインは以下のとおりです。

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これを単純に12AY7に置き換えるとロードラインはこんな感じになります。

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いまひとつな感じです。回路変更が必要となりますが、試しに初段のIpを1mA + 1mA = 2mAに増やしてみます。その結果ロードラインは以下のとおりとなります。

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単純置き換え時よりもいい感じになりました。変更を回路図に反映するとこんな感じになります。

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初段の特性を試算してみます。

■終段グリッドからみた前段出力インピーダンス

RL || rp || Rin + Rg = 19.9K

RL = 110K

rp = 22.8K

Rin = 470K

Rg = 1K

■カットオフ周波数

1 / (2 x π x C x R) = 66.1KHz

C = 121pF(設計編試算結果から)

R = 19.9K

設計編試算結果30KHzに比べてカットオフ周波数を上げられそうです。

■交換後初段ゲイン

真空管変更によるゲインへの影響を確認します。

gm x RL / (RL + rp) = 40 x 110 / (110 +22.8) = 33.1(30.4dB)

gm = 40

RL = 110K

rp = 22.8k

■交換前初段ゲイン

gm x RL / (RL + rp) = 100 x 110 / (110 + 80) = 57.9(35.2dB)

gm = 100

RL = 110K

rp = 80k

真空管の変更によって約4.8dBトータルゲインが下がる事になります。この試算が正しいか実測結果と比較してみます。

■終段ゲイン

設計編の試算結果から6.8倍(16.7dB)

■出力トランスゲイン

SQRT(6 / 2700) / 2 = 0.0236(-32.6dB)

最後の/2は、バランス出力している為

■トータルゲイン比較

わかっている部分を埋めてみました。

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結果がいまひとつ合いません。次回は表の空欄を埋めてゲインへの影響を確認した上で再改造を行います。

 

つづく(製作編4)