安定化電源製作(製作編2)

f:id:torusanada98:20171120121330j:plain

製作編2

トランジスタのhfe測定が終わったので、部品レイアウトを検討して実装を開始します。

部品のレイアウト

私の使用する標準基板(95 x 72mm)に回路を納めるために部品レイアウトの検討を行います。+/-合わせて安定化電源回路が4回路が実装され、さらにそれぞれのドライバには小さいながらも放熱器がつきます。4回路を並列に実装するには、基板の長手方向に4つ並べるのが得策です。この構成は、三端子レギュレータを使っていますが、ヘッドフォンアンプ用の電源基板のレイアウトが参考になります。

f:id:torusanada98:20171120121354j:plain

この電源は、出力段に+/-9Vの三端子レギュレータを使用していますが、さらに電圧増幅段用に+/-12V電源(三端子レギュレータ)を実装しているので実装難易度は今回と同じくらいと考えられます。部品が届いてみて思いの外大きかった物が、入力段に使用する4.7uFのフイルムコンデンサです。

f:id:torusanada98:20171120121438j:plain

あまりの大きさに、使用をあきらめようかとの思いましたが、価格も比較的高く(@150円)せっかく買ったので、なんとか押し込む事を考えたいとおもいます。基板に刺してみたところ基板の長手方向に丁度4個並ぶ事が解りました。

f:id:torusanada98:20171120121515j:plain

後は残りの部品の実装スペースが確保できるかがポイントです。放熱器と出力用の端子台をヘッドフォンアンプの電源を参考にして基板の長手方向に並べます。

f:id:torusanada98:20171120121605j:plain

平滑用の電解コンデンサは出力側と反対の辺にできる限り寄せてに配置します。

f:id:torusanada98:20171120121721j:plain

出力電圧調整用のボリュームの配置ですが、出力用端子台の両脇の空きスペースを使用する事とします。後は残ったスペースへいかにTr, ZD, CRD等を実装していくかになります。ここからは、部品を実装しながら考えたいと思います。

f:id:torusanada98:20171120121826j:plain

実装開始

配置の微調整の余地のない大物部品を初めに取り付けます。出力用の端子台をボリュームの実装スペースを意識して取り付け、次に放熱器+トランジスタを取り付けます。放熱器には足が1本出ているのでこれとトランジスタの3本の足で固定します。放熱器の足は太いので、基板のホールを広げて取り付けます。

f:id:torusanada98:20171120122001j:plain

トランジスタは意味はありませんがプラネジで固定しました。

f:id:torusanada98:20171120122057j:plain

放熱器が外れないようにトランジスタの足をハンダで仮止めします。

f:id:torusanada98:20171120122144j:plain

順番が前後しますが、トランジスタは今後の追加購入の際に、コンプリメンタリペアになりにくい物から選択しました。在庫は全般的にNPNのhfeが高くPNPのhfeが小さいため、2SC3851Aはhfeの大きなものから、2SA1488Aはhfeの小さな物からそれぞれ2個を確保しました。

f:id:torusanada98:20171120123028p:plain

次に配置の微調整の必要がない大物部品として平滑用の電解コンデンサを事前検討したとおり基板の端にできる限り寄せて取り付け、さらに4.7uFのフィルムコンデンサを平滑コンデンサ側に寄せて取り付けました。

f:id:torusanada98:20171120122422j:plain

最初にGNDの配線をします。ループが発生しない様に一部効率を無視して配線しています。次に全波整流回路の配線を行います。なるべく配線が交差しない事を考慮しました。

f:id:torusanada98:20171120122526j:plain

次にドライバと組み合わせるダーリントン接続用のトランジスタを実装します。実装用にフィードバック用も含めてNPNとPNPを各4個づつ選定します。どちらもhfeが大きくコンプリメンタリペアにならず、かつ単純なペア品にもならない物を選択しました

f:id:torusanada98:20171120122234p:plain

f:id:torusanada98:20171120122310p:plain

ダーリントンペアとなる2つのトランジスタの端子の配列は異なります。

f:id:torusanada98:20171120122616p:plain

図のとおり、センターのコレクタは共通でベースとエミッタの配置が逆となっています。これがダーリントン接続には好都合で2個を前後に並べて配置するとシンプルに配線できます。

f:id:torusanada98:20171120122830j:plain

次回は続きの実装を行います。

 

つづく(製作編3)

安定化電源製作(製作編1)

f:id:torusanada98:20171116121415j:plain

製作編1

製作編恒例のトランジスタのhfe測定からスタートし、部品を揃えます。

トランジスタ準備

今回の安定化電源は、ヘッドフォンアンプで使用したトランジスタと同じものを使用します。具体的にはサンケンの2SC3851A/2SA1488Aと東芝の2SC1815GR/2SA1015GRです。初めに現状の在庫の確認を行います。最初は2SC3851A/2SA1488Aの在庫表です。

f:id:torusanada98:20171116121451p:plain

ヘッドフォンアンプ製作で使用した部分が空欄となっています。今回はそれぞれ2個づつしか使用しないため、追加購入をせずに在庫で対応することとします。次に、2SC1815GR/2SA1015GRの在庫を確認します。

f:id:torusanada98:20171116121535p:plain

f:id:torusanada98:20171116121605p:plain

使用量が多かった為在庫が少なく、東芝製の物がいつ購入できなくなるかわからないので追加購入します。

部品の購入

前回の記事で紹介したとおり、部品は秋月電子の通販で購入しました。部品表には抵抗を入れていませんでしたが、全て在庫で対応する予定です。商品は中1日で到着しました。段ボールをあけると、秋月の社名の入ったチャック付きの大袋に各部品が小分けされて入っています。

f:id:torusanada98:20171116121636j:plain

念のため部品の確認をしてから製作の準備に入ります。

hfe測定

2SC1815GR/2SA1015GR共に各20個購入しました。それでは他製作での使用を考慮してfhe測定を行います。測定は回路と条件共に在庫測定時と同じにしています。図はNPNの測定回路です。

f:id:torusanada98:20171116122122p:plain

Ic=10mAに調整してその時のベース電流を測定してhfeを算出します。最初に2SC1815GRの測定を行います。Ic調整用のテスタはアナログ式が、Ib測定用のテスタはデジタル式が適しています。

f:id:torusanada98:20171116121749j:plain

測定時のトランジスタの損失は30mWなのでトランジスタの温度上昇もほとんどなく各部電流はすぐに安定するので、測定時間は短くて済みます。結果は以下のとおりです。

f:id:torusanada98:20171116121827p:plain

結果はhfeを昇順でソートしています。編みかけの物が今回購入分ですが、見ての通りhfeの分布は全て在庫よりも高くなっています。前回までは、hfeが小さくコンプリメンタリの確保に苦労しましたが、今回は逆に高すぎて従来在庫を対象とした場合、コンプリメンタリの確保には寄与しません。(2SA1015GRの在庫の分布の上限はhfe=230)今回はコンプリメンタリ選別が不要なので、これから行うPNP品の測定結果にもよりますが、hfeの大きな物から使っていくことにします。続いて2SA1015GRの測定を行います。ジャンパーケーブルを組み替えてPNPの測定回路に変更をします。

f:id:torusanada98:20171116122150p:plain

測定条件はNPNと同様にIc=10mAで測定します。結果は以下のとおりです。

f:id:torusanada98:20171116121904p:plain

NPN同様に結果はhfeでソートしています。2SC1815GRとは異なり、今回測定分はhfeが満遍なく分布しています。残念ながら今回入手した高hfeの2SC1815GRとコンプリメンタリになるもは1つもありませんでした。今後の事も考慮して、2SC1815GRはhfe大きな物(303~315)の物を、2SA1015GRはhfe=227~230のものを今回使用する事とします。測定したトランジスタは、従来どおりナンバリングした小袋に入れて管理します。在庫が増えるとなんとなく安心します。

f:id:torusanada98:20171116121941j:plain

次回は部品のレイアウトを決めて、製作に着手します。

 

つづく(製作編2)

安定化電源製作(設計編)

f:id:torusanada98:20171113121317j:plain

設計編

安定化電源回路の動作の理解ができたので、設計を行います。

設計仕様

今回は、チャンネルデバイダー用の電源の載せ替えを前提に設計を行います。図はチャンネルデバイダーの回路図です。

f:id:torusanada98:20180128130004p:plain

フィルター用コンデンサの接続に誤りがあり、回路図を修正しました。詳細は、2018-02-09「女神たちの争い(製作編3)」を参照ください。

オペアンプを使ったベッセル特性のアクティブフィルターとその前段にオペアンプを使ったボルテージフォロワで構成されています。この現行の電源は、ツェナーダイオードトランジスタで構成した定電圧回路で構成しています。

f:id:torusanada98:20171113121503p:plain

左右独立で、+/-12Vを供給します。片チャンネルあたりオペアンプ2個の負荷なので負荷電流は片チャンネルあたり20mA程度です。トランスはトロイダル方式で12V/500mA x2で、全波整流後の電圧は16.3Vくらいになります。電圧にあまり余裕がないので設計で考慮が必要です。これら要求を設計仕様として整理します。

・左右独立電源

・出力電圧:+/-12V

・出力電流:100mA

・入力電圧:16.3V

定数設計

初めに正電圧安定化電源回路の定数を決めます。改めて正電圧安定化電源回路図を掲載します。前回の記事に掲載したものに対して、出力電圧の調整用のVR1を追加しています。

f:id:torusanada98:20171113121600p:plain

トランジスタのVbeは約0.6VなのでTr1のベース電圧は13.2Vになります。Tr1とTr2のhfeをそれぞれ200と50と仮定すると、最大負荷(100mA)時にTr1のベース電流は0.01mAとなります。ベースのバイアス電流として1mA流せば十分なので、CRDを1mAとします。入出力間の電圧差があまりないので、CRDに大きな電圧をかけられません。図はCRDのV-I特性です。

f:id:torusanada98:20171113121643p:plain

選定した1mA品(E-102)の特性は仕様書から肩特性電圧1.7Vとの事なので、R1を1KΩとしてCRDに2.1Vをかけることとします。次にZD1の定格を決めます。Tr3のコレクタ電圧13..2VをTr3とZD1で半分づつ印加することとしてZD1を6.2Vにします。次にR3, R4とVR1を決めます。この部分の電流を3mAとすると、抵抗値の総和は4kΩとなります。Tr3のベース電圧を6.8Vとする必要があるので抵抗の比率は5.2:6.8となります。具体的な抵抗値は1.7KΩ:2.3KΩとなります。これをR3, R4, VR1で構成すると総抵抗値はやや増えますが、R3=1.5KΩ, R4=2.2KΩ, VR1=500Ωとなります。次にZD1に流すバイアス電流を決めます。図はZD1の特性図です。(6.2V品は図中の5.6V品と6.8V品の間のライン)

f:id:torusanada98:20171113121727p:plain

ツェナーダイオードの定格電圧はId=5mAで唱っているので、電流を5mA以上流したいと考えて、R2=1KΩとしました。トランジスタは、在庫をもっているため、Tr1とTr3をそれぞれ2SC1815GR、Tr2を2SC3851Aとします。各コンデンサの容量は、ネット上の設計事例を参考に適当に決めました。上記で決めた定数を回路図に反映しました。

f:id:torusanada98:20171113121816p:plain

熱設計

ドライバの放熱設計をします。最大負荷100mAのときのトランジスタの損失は、

Pmax = (16.3 - 12) x 0.1 = 0.43W

このレベルであれば、放熱は不要と考えられますが気休めに小型の放熱器をつけることにします。秋月電子で販売されているW15xH25xD11のサイズの物で、熱抵抗は37.9℃/Wです。

f:id:torusanada98:20171113121906j:plain

最大負荷時の損失0.43Wで約16.3℃(37.9x0.43)温度上昇します。室温が30℃としても放熱器温度が46.3℃と放熱としては十分です。同様に負電圧安定化電源回路の定数も決めました。図は定数を反映した回路図です。

f:id:torusanada98:20171113122005p:plain

部品発注

回路図を元に部品表をまとめました。部品のラインナップは、秋月電子よりもマルツオンラインの方が豊富ですが、ディスクリート部品の価格は、総じて秋月電子の方が安いため、部品表のショップ欄はすべて秋月電子としています。

f:id:torusanada98:20171113122052p:plain

一部コンデンサは、回路図にないものもリストされていますが、調整用に購入をかける分です。次回は製作に入ります。

 

つづく(製作編1)

安定化電源製作(構想編)

f:id:torusanada98:20171108235019j:plain

構想編

ディスクリート構成の安定化電源を使ったアンプの音を聴いてみたいとおもい、安定化電源の設計製作を構想します。

電源回路

今までの製作で採用した電源回路は大きく以下のとおり大別できます。

1)全波整流コンデンサ平滑回路

f:id:torusanada98:20171108235059p:plain

2)ツェナーダイオードトランジスタによる定電圧回路

f:id:torusanada98:20171108235149p:plain

3)三端子レギュレーターによる安定化電源

f:id:torusanada98:20171108235228p:plain

「適切でない制御は動作を乱して音を悪くする」は私の基本的な考え方の一つです。加えてA級バランス方式のアンプの特徴として、HotとColdチャンネルの電源の負荷電流の和が一定となる為、電源回路の影響を受けにくいと考えてきました。このような考えから、バランス方式の電圧増幅段には2)の方式の電源を、A級バランス方式の終段の電源には、最も単純な1)の方式の電源を、さらに負荷電流が変化する所へは、手軽に安定化電源を構成できる3)の方式の電源を使ってきました。しかし、A級BTL方式DCパワーアンプ製作の音聴きの際に電源の微調整で音が大きく変わる事を経験し、いずれディスクリートで安定化電源を製作してみたいと考えていました。

f:id:torusanada98:20171108235312j:plain

一方、手軽な安定化電源回路として三端子レギュレーター方式の電源の音は、良くも悪くもないとの印象ですが、私自身が今まで一度も設計製作した事のないディスクリート構成の安定化電源回路を製作して、その性能と音を他の方式の電源と比較したいとおもいます。

安定化電源回路

一般的な安定化電源回路をネットで検索して回路の動作をまずは理解します。正電圧電源と負電圧電源では回路が異なりますが、動作は共通なので正電圧電源回路で動作原理を確認してみます。図の回路はバイポーラトランジスタをドライバに使用した一般的な安定化電源回路です。

f:id:torusanada98:20171108235354p:plain

それぞれのトランジスタのhfeは十分大きく、ベース電流ibが無視できる前提で回路の理解を進めます。出力側からTr3のベース電圧Vb3を求めると、

Vb3 = R4 / (R3 + R4) x Vo

となります。Tr3のエミッタ側からTr3のベース電圧Vb3を求めると、

Vb3 = VZD1 + Vbe3

となります。上記2つの式を使ってVoを求めます。

R4 / (R3 + R4) x Vo = VZD1 + Vbe3

V0 = (VZD1 + Vbe3) x (R3 + R4) / R4

上記の関係に従って出力電圧が決まります。それでは、回路の動作を定性的に理解したいとおもいます。入力段のCRDは入力電圧によらず、ドライバベース電流用のバイアス電流を供給します。Tr1とTr2ダーリントン接続により総合的なhfeを稼いでいます。R3は、ZD1に十分な電流を流して安定した定電圧を発生させます。ZD1に並列に接続されたC4はZD1のノイズ吸収用です。C3はフィードバックループの位相補償用のコンデンサです。それでは状況別に具体的な動作をシミュレーションしてみます。

■負荷が重くなった場合

電源の出力インピーダンスの影響で出力電圧が下がり、それに伴いTr3のベース電位も下がります。この結果Tr3のコレクタ電流が減少します。入力段のCRDによって、ドライバのベース電流とTr3のコレクタ電流の和は一定となるので、この時のドライバのベース電流が増加します。負荷が重くなった分、ドライバが電流の供給を増やし、出力の電圧低下を抑えます。

■負荷が軽くなった場合

電源の出力インピーダンスの影響で出力電圧が上がり、それに伴いTr3のベース電位も上がります。この結果Tr3のコレクタ電流が増加します。入力段のCRDによって、ドライバのベース電流とTr3のコレクタ電流の和は一定となるので、この時のドライバのベース電流が減少します。負荷が軽くなった分、ドライバが電流の供給を減らし、出力の電圧上昇を抑えます。

■入力電圧が変化した場合

CRDが電圧の変動を吸収し、ドライバベース電流用のバイアス電流として、一定電流を流しつづけ、後段の動作への影響を減らします。

以上が定性的な回路動作シミュレーション結果です。同様に下図は負電圧安定化電源回路です。

f:id:torusanada98:20171108235450p:plain

動作は正電圧安定化電源とまったく同じなので説明を割愛します。回路およびその動作が理解できたので、次回は定電圧回路方式の電源を搭載したチャンネルデバイダ用の電源(本記事アイキャッチ写真を参照)の置き換えを前提として、具体的な設計を進めます。

 

つづく(設計編1)

A級バランスHPアンプ製作(まとめ編)

f:id:torusanada98:20171106115542j:plain

まとめ編

やっと完成したので、設計のまとめと音を聴いた印象を紹介します。

設計まとめ

HPアンプ回路は当初の設計から下記3点を変更しました。

・ゲインを約9.2倍(19.3dB)から2倍(6.0dB)に下げた

・終段のアイドリング電流を70mAから60mAに下げた

・出力抵抗を2Ωから12Ωに変更

上記を反映した回路図に、amp4安定時の各部電圧を記入したものを掲載します。

f:id:torusanada98:20171106115607p:plain

次に改めて終段アイドリング電流の温度補償の状況を確認します。以前の測定は、終段の電源としてユニバーサル電源を使っていたため、+/-6Vを供給した状態の結果でした。今回は正規の電圧(+/-9V)で再測定をします。終段のエミッタ抵抗の両端電圧を測定して終段の電流を算出します。

f:id:torusanada98:20171106115652p:plain

結果を見ると各アンプの初期電流値が異なりますが、測定を朝から行い1つのアンプの測定後に十分な冷却時間を取ったため各アンプの測定開始時の室温が徐々に上がった事が原因と推定しています。アイドリング電流の調整値を70mAから60mAに下げましたが、それでも終段のトランジスタ温度は高く(60℃くらい)温度補償トランジスタの動作が安全な温度キープの要となっています。最後に各ヘッドフォンアンプの出力オフセットを測定します。

f:id:torusanada98:20171106115733p:plain

ヘッドフォンアンプのゲインを2倍に押さえたため、ヘッドフォンアンプとしては十分なレベルに抑えられています。

f:id:torusanada98:20171106115810j:plain

音聴き

普段音楽はヘッドフォンで聴かないため試聴が楽しみです。それではいつもはスピーカーで聴いているCDをヘッドフォンで聴いてみます。初めにバランス接続で聴いて、その後でケーブルを交換してアンバランス接続で聴きます。

■BJ ONE/Bob James 展覧会の絵

f:id:torusanada98:20171106115850j:plain

バランス接続ですが、ベースの音が明快に聴こえます。トランペットの音が軽々伸びます。全身で感じるスピーカーに比べて耳からのみなので物足りない感じがしますが、環境を含めたS/Nは格段に良いので、音楽に集中できます。アンバランス接続に切り替えます。音が幾分センターよりに聴こえます。ハイハットの音がやや沈んで聴こえました。

■LINDEN BAUM/井筒香奈江 氷の世界

f:id:torusanada98:20171106115922j:plain

バランス接続では、ピアノの音が自然に広がります。ウッドベース胴鳴りがリアルに再現されます。前半のささやくような歌声もリアルです。アンバランス接続に切り替えますが、悪くはないですが、幾分こじんまりした印象の音です。

■惑星/木製

f:id:torusanada98:20171106115953j:plain

バランス接続時は、オーケストラのスケール感が再現されます。音はマイルドな鳴り方をします。出だしの部分で、いままで気づかなかった音に気づきました。曲の調子に合わせて呻きのような音です。バランス接続固有の問題かとおもい、アンバランス接続で聴いてみましたが、やや印象は後退しますが、音は聴きとれました。何の音でしょうか?アンバランス時は、ややスケール感が後退して聴こえます。

■Swing Jaz Swing Life/SHARP & FLATS TAKE THE "A" TRAIN

f:id:torusanada98:20171106120033j:plain

バランス接続は、ブラスが突き抜ける感じで鳴ります。ドラムの音に張りが感じられます。アンバランス接続に切り替えると、演奏が中音域にやや寄ったように聴こえました。

まとめ

最後に、終段のアイドリング電流を70mAから60mAに下げたことと、出力抵抗を2Ωから12Ωに変更したことの影響を計算しておきます。条件は今回使用したパイオニアのヘンドフォンのインピーダンス45Ω前提です。出力にA級動作時のIpeak=60mAが流れた場合、Hot/Coldアンプ間のVpeak=4.1Vとなり終段電源電圧+/-9Vは十分マージンがあります。その場合のヘッドフォン出力は約80mWとなります。改めて最終回路図を掲載します。

f:id:torusanada98:20171106120129p:plain

f:id:torusanada98:20171106120218p:plain

f:id:torusanada98:20171106120306p:plain

今回、アンバランス入力とバランスダイレクト入力のチェックを行っていませんが、機会を見て確認したいとおもいます。途中番外編が入り中断がありましたが、7月11日から約4ヶ月の長い間お付き合いいただきありがとうございました。

PS

書斎の机にデスクトップのビデオ再生環境があり、その音を10インチモニター内蔵のヘッドフォンアンプ+ゼンハイザーのイヤフォン式ヘッドフォンを使って聴いていました。この用途に今回のアンプを使ったところTV放送の音を格段に良い状態で聴けるようになりました。音は静かでかつダイナミックで広帯域です。信号は、2017年1月3日の記事「自作アンプで年末を聴く」で紹介したシステムを使ってバランスアナログ信号に変換してヘッドフォンアンプに入力しています。(写真はHDMIから光デジタル信号分離用コンバーター)これで今回製作のヘッドフォンアンプが棚のこやしにならずに済みました。

f:id:torusanada98:20171106120356j:plain

おわり(まとめ編)

A級バランスHPアンプ製作(製作編26)

f:id:torusanada98:20171102121341j:plain

製作編26

前回発振対策が終わったので、残るハム対策を含めて完成度を上げます。

ハムの状況

バランス出力はまったくハムが聴きとれません。アンバランス出力は聴きとれるレベルのハムが出ています。アンバランス系で気になる点は、ヘッドホン出力でL/RチャンネルのGNDが接続される点です。電源はL/R用のGNDが1点アースされていて、そこから各アンプのGNDに独立して配線しています。何も考えずに信号の入力から出力までのGNDを接続すると信号入力部のGNDが電源1点アースを介してアンバランス接続されたヘッドフォンのGND間で大きなループができてしまい、ハムの発生面で不利になります。

GNDの配線

GNDの接続状況は文章では解りにくいので図示してみました。

f:id:torusanada98:20171102121403p:plain

図中の赤の楕円は2芯シールド電線のシールドラインを示しています。図中には記載していませんが、各アンプのGND(GND1~GND4)は電源の1点アースに独立して接続されています。アンバランスヘッドフォンに対応するためヘッドフォンアンプの各GND(GND2とGND4)はヘッドフォンジャックで接続しています。現状、信号系のGNDループを避けるために、入力切り替え用のロータリーSWの配線部分で各配線のシールドを接続せずに裸状態で放置してあります。(回路図上の①~④)

f:id:torusanada98:20171102121458j:plain

入力から出力までGNDを接続する場合は、図の①と②、③と④を接続することになります。この場合は信号入力部のGNDが電源1点アースを介してアンバランスヘッドフォンジャックのGND2+4間で大きなループを構成してしまいます。裸シールド線状態で放置した①~④を適当に接続してハムの状態を確認してみました。その結果②と④を接続した状態が一番レベルが低くなる事がわかりました。理由は良くわかりませんが、ループが比較的小さくなる事と、ヘッドフォンアンプ入力のGND電位が揃うことでハムレベルにとってバランスが良い状態となる為と推定しています。不要となった①と③のシールド線はカットし、②と④はハンダ付けして端末キャップを被せてインシュロックで固定しました。

f:id:torusanada98:20171102121546j:plain

ハムの状況2

上記のシールドラインの処理でアンバランス出力時のハムレベルは大きく改善しました。しかし、ボリュームを上げていくとまだハムが聴こえます。ボリュームが3時の位置あたりからハムがわずかに聴こえ初め、フルボリュームではハッキリ聴きとれます。これ以上、簡単には対策できないため、前向きな対策ではありませんが、トータルのゲインを下げる事としました。ボリューム3時の位置の減衰両は、約0.4倍(830Ω/2KΩ)です。この結果を目安に、フルボリューム時に減衰量が0.4倍程度に下がるようボリュームへ直列に2.2KΩを接続しました。この場合のフルボリューム時の減衰量は約0.48倍(-6.4dB)です。

f:id:torusanada98:20171102121628p:plain

2.2KΩは手軽に実装するために、ボリュームの端子へ直付けしました。

f:id:torusanada98:20171102121716j:plain

この対応によって、アンバランスヘッドフォン使用時にフルボリュームにしてもハムはほぼ聴きとれない状況になりました。この結果、バランスヘッドフォン使用時のボリュームの位置はおよそ10時の位置に、アンバランスヘッドフォン使用時のボリュームの位置はおよそ12時の位置となりました。

■バランスヘッドフォン使用時のボリューム位置

f:id:torusanada98:20171102121756j:plain

■アンバランスヘッドフォン使用時のボリューム位置

f:id:torusanada98:20171102121846j:plain

仕上げ

アイドリング、出力オフセットが問題ないことを確認して最終の仕上げに入ります。シャーシ内の配線をインシュロックを使って束線します。

f:id:torusanada98:20171102121932j:plain

安物ですが、添付のゴム足を接着して完成です。最後に念のため、出力にオシロスコープを接続し、発振していない事を確認しました。ボリュームをぐるぐる回したり、ヘッドフォンを抜き差ししてショックを加えましたが問題ありません。トップカバーを被せて今度こそ完成です。次回完成したヘッドフォンアンプの音を聴き、まとめを行います。

 

つづく(まとめ編)

A級バランスHPアンプ製作(製作編25)

f:id:torusanada98:20171030121553j:plain

製作編25

位相補償コンデンサの容量を調整して発振対策を行いましたが、発振が止められなかったため、状況を整理して改めて対策を検討します。

状況の整理

前回は、いきあたりばったりに対策及び効果確認を行い、泥沼に入ってしまったので状況を整理します。確認した対策のパラメータは、位相補償コンデンサ容量、アンプのゲイン、負荷の有無です。確認を行った組み合わせを表にまとめてみました。

■発振対策効果確認状況

f:id:torusanada98:20171030121620p:plain

この表から以下の事が言えます。

・ゲイン1倍の場合は位相補償用コンデンサの容量、負荷の有無によらず発振

・ゲイン2倍の場合は負荷接続時のみ発振

この結果から、対策方法としてはいまいちですが、ゲインを2倍として出力に直列に抵抗を入れて効果を確認してみます。

対策効果確認

現状の出力回路には、ショート時の過電流防止用に2Ωの抵抗が入っています。

f:id:torusanada98:20171030121732p:plain

2Ωに直列に抵抗を接続して効果を確認します。簡単に確認するために出力用の基板端子台へ抵抗のリードを接続し、反対側はヘッドフォンジャック用の配線をハンダしました。

f:id:torusanada98:20171030121832j:plain

最初に試したものは、手元にあった比較的小さい抵抗値の物から10Ωを試しました。Rチャンネルのみ対策して電源を入れます。無負荷状態の時は発振はしません。一旦電源を切ってヘッドフォンを接続し電源を入れます。オシロの画面には無情にも発振波形が現れました。次に手持ち在庫の小さい抵抗値の物から68Ωを試してみます。先ほどと同様に、Rチャンネルのみ対策をして確認を行いました。今度こそと思いながら電源を入れましたが、オシロの画面には発振波形が現れました。次は抵抗値100Ωですが、このまま抵抗値を上げていっても解決しない気がしてきたところで、1点追加確認をしてみる事を思いつきました。今回の対策確認はRチャンネルのみなので、Lチャンネルは確認時に発振しています。この発振の影響を受けている可能性を考えて、Lチャンネルの配線(出力端子台の接続)を外して確認を行ってみることにしました。Lチャンネルは無負荷となり、ヘッドフォンを接続しても発振しません。

f:id:torusanada98:20171030121925j:plain

恐る恐る電源を入れたところ、予想が的中してヘッドフォン接続状態でも発振しない事が確認できました。次に出力に接続する抵抗を10Ωに戻して、L/Rチャンネルともに簡易対策を行ってみました。

f:id:torusanada98:20171030122014j:plain

改めて電源を入れて確認を行いましたが発振はしていませんでした。この結果からゲインを2倍、出力に10Ωの追加を対策とします。

改造と確認

決定した対策を基板へ実装します。現時点Rチャンネルの基板の位相補償用のコンデンサは47pFになっています。位相補償22pFで問題ないことは、Lチャンネル側で確認できているので、Rチャンネル側から対策を行い、同時に位相補償コンデンサを戻して確認します。基板を取り外し、初めに位相補償用のコンデンサを元使っていた22pFに戻します。写真はcold側のみ戻した状態です。

f:id:torusanada98:20171030122057j:plain

出力へ10Ω追加の改造は、現状付いている2Ωの交換も考えましたがやめました。改造が比較的大変だったことと、発振対策としての効果が未確認な事が理由です。簡単に改造する方法として、出力の端子台の脇に10Ωを追加することとしました。写真は改造後のものですが違和感なく追加する事ができました。

f:id:torusanada98:20171030122150j:plain

基板を元通りシャーシに取り付けて、一旦この状態で発振の確認を行いました。位相補償コンデンサを元に戻した影響もなく問題ありませんでした。Lチャンネルも同様の対策を行うために取り外しました。この基板は10Ωの追加のみです。

f:id:torusanada98:20171030122235j:plain

緑の配線が追加となりました。元々終段まわりは無理して詰め込んでいたため、抵抗2本のみの追加ですが、配線がごちゃごちゃした感じになりました。

動作確認

ヘッドフォンを接続して電源オンし、出力をオシロで確認しましたが無事発振は治まりました。試しに信号を入力して音を聴いてみましたが、バランス出力時はまずまずの鳴りぷりです。アンバランス出力はハムが聴こえています。やっと完成が見えて来た感じですが、次回はハム対策を含めて完成度アップを行います。

 

つづく(製作編26)