構想編
ディスクリート構成の安定化電源を使ったアンプの音を聴いてみたいとおもい、安定化電源の設計製作を構想します。
電源回路
今までの製作で採用した電源回路は大きく以下のとおり大別できます。
1)全波整流コンデンサ平滑回路
3)三端子レギュレーターによる安定化電源
「適切でない制御は動作を乱して音を悪くする」は私の基本的な考え方の一つです。加えてA級バランス方式のアンプの特徴として、HotとColdチャンネルの電源の負荷電流の和が一定となる為、電源回路の影響を受けにくいと考えてきました。このような考えから、バランス方式の電圧増幅段には2)の方式の電源を、A級バランス方式の終段の電源には、最も単純な1)の方式の電源を、さらに負荷電流が変化する所へは、手軽に安定化電源を構成できる3)の方式の電源を使ってきました。しかし、A級BTL方式DCパワーアンプ製作の音聴きの際に電源の微調整で音が大きく変わる事を経験し、いずれディスクリートで安定化電源を製作してみたいと考えていました。
一方、手軽な安定化電源回路として三端子レギュレーター方式の電源の音は、良くも悪くもないとの印象ですが、私自身が今まで一度も設計製作した事のないディスクリート構成の安定化電源回路を製作して、その性能と音を他の方式の電源と比較したいとおもいます。
安定化電源回路
一般的な安定化電源回路をネットで検索して回路の動作をまずは理解します。正電圧電源と負電圧電源では回路が異なりますが、動作は共通なので正電圧電源回路で動作原理を確認してみます。図の回路はバイポーラトランジスタをドライバに使用した一般的な安定化電源回路です。
それぞれのトランジスタのhfeは十分大きく、ベース電流ibが無視できる前提で回路の理解を進めます。出力側からTr3のベース電圧Vb3を求めると、
Vb3 = R4 / (R3 + R4) x Vo
となります。Tr3のエミッタ側からTr3のベース電圧Vb3を求めると、
Vb3 = VZD1 + Vbe3
となります。上記2つの式を使ってVoを求めます。
R4 / (R3 + R4) x Vo = VZD1 + Vbe3
V0 = (VZD1 + Vbe3) x (R3 + R4) / R4
上記の関係に従って出力電圧が決まります。それでは、回路の動作を定性的に理解したいとおもいます。入力段のCRDは入力電圧によらず、ドライバベース電流用のバイアス電流を供給します。Tr1とTr2はダーリントン接続により総合的なhfeを稼いでいます。R3は、ZD1に十分な電流を流して安定した定電圧を発生させます。ZD1に並列に接続されたC4はZD1のノイズ吸収用です。C3はフィードバックループの位相補償用のコンデンサです。それでは状況別に具体的な動作をシミュレーションしてみます。
■負荷が重くなった場合
電源の出力インピーダンスの影響で出力電圧が下がり、それに伴いTr3のベース電位も下がります。この結果Tr3のコレクタ電流が減少します。入力段のCRDによって、ドライバのベース電流とTr3のコレクタ電流の和は一定となるので、この時のドライバのベース電流が増加します。負荷が重くなった分、ドライバが電流の供給を増やし、出力の電圧低下を抑えます。
■負荷が軽くなった場合
電源の出力インピーダンスの影響で出力電圧が上がり、それに伴いTr3のベース電位も上がります。この結果Tr3のコレクタ電流が増加します。入力段のCRDによって、ドライバのベース電流とTr3のコレクタ電流の和は一定となるので、この時のドライバのベース電流が減少します。負荷が軽くなった分、ドライバが電流の供給を減らし、出力の電圧上昇を抑えます。
■入力電圧が変化した場合
CRDが電圧の変動を吸収し、ドライバベース電流用のバイアス電流として、一定電流を流しつづけ、後段の動作への影響を減らします。
以上が定性的な回路動作シミュレーション結果です。同様に下図は負電圧安定化電源回路です。
動作は正電圧安定化電源とまったく同じなので説明を割愛します。回路およびその動作が理解できたので、次回は定電圧回路方式の電源を搭載したチャンネルデバイダ用の電源(本記事アイキャッチ写真を参照)の置き換えを前提として、具体的な設計を進めます。
つづく(設計編1)