音楽の女神への挑戦(製作編1)

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製作編1

初めにコンプリメンタリで使用するトランジスタの選別を行います。

2SC1815GR/2SA1015GR

東芝製のエピタキシャル形トランジスタで、価格も安く(200円/20個)秋月電子に在庫があることから今までも使用してきましたが、この2種類のトランジスタはコンプリメンタリ品です。推奨用途は、「低周波電圧増幅用」「励振段増幅用」となっていて、Po=10W用アンプのドライバが具体的な例としてデータシートに記載されています。GR品はhfe=200~400のクラスとなります。Icmax=150mA, Pc=400mW, ft=80MHz minと今回の用途にマッチしています。購入したものはPNPのみテーピング品のため、両者でリードのフォーミングが異なっています。

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NPN品hfe測定

終段のコンプリメンタリ用のTrを選別するため、使用時のバイアス電流に合わせてIc=10mAでhfe測定を行います。まずはNPN品から行いますが、回路は以下のとおりです。

■2SC1815GR hfe測定回路

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ベース側のボリュームを調整して、エミッタ抵抗200Ωの印加電圧を2Vに合わせてIc=10mAとします。その時のベース抵抗10kΩの両端電圧を測定してIbを算出します。測定開始時にベース電位が低くなるようにボリュームをセットしておき、トランジスタに過電流を流さないようにします。測定ジグは、BTL A級DCアンプ製作時に作ったものを使用しました。

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トランジスタは、レバー付きのDIP用のICソケットを使用して取り付けます。(本記事キャッチ写真参照)配線はジャンパーワイヤーとピンソケットを使用して、自由に回路の組み替えができるようにしています。BTL A級DCアンプのドライバ測定時はトランジスタに放熱器が必要な条件で測定した為、安定するまでに時間がかかりましたが、今回の測定は発熱しないため、すぐに動作が安定しました。

PNP品hfe測定

測定回路は以下のとおりです。ベース側のボリュームを調整して、エミッタ抵抗200Ωの両端電圧を2Vに合わせてIc=10mAとします。その時のベース抵抗10kΩの両端電圧を測定してIbを算出します。NPN測定時との違いは、測定開始時にベース電圧を高くなるようにボリュームをセットして、トランジスタに過電流を流さないようにする点です。ジグは、ジャンパーワイヤーの差し替えでPNPに対応させました。

■2SA1015GR測定回路

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測定結果

今回20ペア購入して測定を行いました。測定済みのトランジスタは、部品用の小袋にナンバリングして管理します。

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以下がNPN/PNPの測定結果です。共にGR品ですが、hfeが200を割っているのは、データシート掲載値と測定条件(Ic=10mA)が違う為と考えられます。

■2SC1815GR測定結果

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■2SA1015GR測定結果

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この結果を元にコンプリメンタリペアを選択します。総じてNPN品のhfeが小さいため最大品から4個を、PNPは最小品から4個を組み合わせました。下記の表は、それぞれのトップ10とボトム10を抜き出して4個を組み合わせたものです。今回のコンプリメンタリペアのhfe誤差は5%前後となりベストマッチとはなりませんでしたが、神経質にはならずに、このペアで進める事にします。実動作条件は異なりますが、この結果をもとに初段のカスコード用及び2段目のトランジスタペアも選別します。

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次回は基板への部品実装を進めます。

 

つづく(製作編2)

 

音楽の女神への挑戦(設計編)

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設計編

構想編でまとめた内容に沿ってディスクリートアンプの設計を進めます。

電源回路

BTL A級DCアンプの電圧増幅段の電源回路を流用します。特徴は負荷変動に対する制御は行わずに、入力変動とリップルを抑えるだけですが、今回の用途にはマッチしています。搭載されているトランスは、12Vx2出力のトロイダルタイプで、この出力を全波整流すると無負荷状態で16.8Vとなります。この入力からDC12Vをつくるとき、出力トランジスタの印加電圧は4.8Vとなりオリジナル回路よりも小さくなります。BTL A級DCアンプの電圧増幅段用電源では、出力トランジスタとしてダーリントンタイプを使用しましたが、トランジスタ印加電圧を少しでもかせぐために、今回は普通のトランジスタを使用します。出力12Vとするためには、出力トランジスタのベース電圧を12.6Vにする必要がありますが、丁度いい電圧のツェナーダイオードがなかったため、9.1Vと3.6Vの直列使用で12.7Vとします。平滑用の電解コンデンサはトランスの負担になりますが、出力トランジスタの入力電圧をかせぐために、大容量のものを使用します。

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アンプ回路

アンプ部もBTL A級DCアンプの電圧増幅段の回路を流用しますが、特徴は差動動作にこだわり、無理にゲインを稼がずに裸特性を優先させています。オリジナルは、13.6Vの電源で動作させましたが、今回は12.1Vで動作させるために、回路定数の見直しをします。初段の負荷抵抗に3Vをかけ、カスコードトランジスタに、4.1Vの電圧を印加し、最大振幅時にもカットオフしないようにします。終段のコンプリメンタリのドライバには、10mAのバイアス電流を流し、エミッタ抵抗を10Ωとしました。2段目の差動回路のバイアス電流を5mAとすると、初段およびドライバ段の設計から2段目の定数が自ずと決まります。これらを反映して回路図を起こします。

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部品の選定

最初に基板を選択します。秋月電子のユニバーサル基板は品質、価格共に良かったため、今回も通販のラインナップから探します。A~Dの4種類のサイズのものがあり、それぞれの寸法は以下のとおりです。

A:155x114
B:95x72
C:72x47
D:47x36

完成済みのシャーシに納めるため、ボリューム、トランスの配置を考慮してBタイプを選択しました。下の写真のとおり、電源基板用1枚と、Lch/Rch用にそれぞれ1枚を実装します。アンプ基板1枚の固定用のネジ位置1カ所がボリュームの下となってしまうため、この基板のみ3点支持とします。

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初段のdual FETは選択の余地がなく、今回もチップパッケージの2SK2145GRを変換基板に搭載して使用します。

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トランジスタは、BTL A級DCアンプで使った2SC1815GRと2SA1015GRがコンプリメンタリ品なので、これで済ます予定ですが、バックアップとして2SA2240GRと2SA970GR品も購入しました。(本記事キャッチ写真参照)

電源回路は、左右独立電源としていますが、基板へ部品実装時にスペースを確認して、独立電源の可否を改めて判断します。出力トランジスタは、40V/3A品の2SC3422/2SA1359を選択しました。回路図を元に改造基板用の部品表を作成したので参考に公開します。

■アンプ部0.5ch分部品表

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■電源部部品表

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次回は、トランジスタの選別から組立について紹介します。

 

つづく(製作編)

 

音楽の女神への挑戦(構想編)

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構想編

昨年(2016年)に自作したバランスボリュームS1502をディスクリート化しようと検討を開始しました。

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音楽の女神

大層なタイトルをつけてしまいました。タイトル画は面倒くさがる娘にわざわざ描いてもらったものです。お駄賃は身内価格で1000円です。本題に入る前にバランスボリュームS1502の回路をおさらいします。

■アンプ部回路図

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■電源部回路図

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トロイダルトランス出力を全波整流し、それを正負の3端子レギューレータで受けて+/ー電源をつくり、外部入力(USB DAC出力)をオペアンプを使ったボルテージフォロワで受けて、その出力をアッテネートしてパワーアンプに出力するありきたりの構成です。使用したオペアンプオペアンプとして破格の1個3500円もするJRCのオーディオ用オペアンプMUSES01です。今回はこのボルテージフォロワを構成するオペアンプディスクリート化しようと思い立ち、せっかくなので電源の3端子レギュレータも削除してディスクリート化することにしました。このオペアンプ名称のMUSESがギリシャ神話で智、文芸、音楽、芸術、学問などをつかさどる9人の女神たちとのことで、今回はこの音楽の女神にディスクリートアンプで挑みます。

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MUSES01

Web上にMUSESシリーズの特設サイトが設けられていて、そこには「心に響く"真実の音"」、「優れたオーディオ特性はもとより、徹底的に試聴を繰り返し、人の感性に響く音を追求した最高峰の半導体バイス。」と唱われています。また、MUSES01のプレスリリースには、以下3つの特長が唱われています。

1.リードフレームに世界で初めて高純度の無酸素銅を採用
2.左右(L/R)のチャンネル間クロストークの徹底低減
3.数値には現れない心に響く良質な音を追求

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尚、MUSESのスペックは、2016-07-09公開の「バランス方式ボリューム製作(製作編)」を参照ください。と、このように挑戦相手として不足はありません。逆に勝てるのか心配になってきました。サイト上には昨今の事情を反映して、「模倣半導体製品にご注意ください。」と注意喚起されていますが、どのように見分けたらいいか説明がありません。しかるべきルートで購入し、最後は聴いて判断するしかないのでしょうか?今回の自作がうまくいけば、このような心配も不要となります。

基本構想

ケースの加工(特にXLRコネクタ部)が大変な事と、出費を抑えるために使用中のS1502そのものを改造することとします。アンプの回路は、オーソドックスに差動2段でコンプリメンタリドライバ1段構成とします。具体的な回路は、BTL A級DCアンプのもの流用し、ドライバのトランジスタのみ変更する方針とします。

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電源は低電圧ダイオードトランジスタバッファ構成とし、能動動作をさせないことにします。具体的には、これもBTL A級DCアンプの電圧増幅段用の回路を流用します。
できれば、左右独立電源としたいとおもいますが、実装スペースを検討した上で決定します。

課題

始めに今回製作の課題を上げておきます。

1.ディスクリートアンプをボルテージフォロワとした場合の発振対策
 今までやってみた事がないので、特別な対応の要否も含めてわかりません。

2.オフセット対策
 真空管パワーアンプ使用時はあまり気になりませんが、BTL_A級DCアンプ使用時の出力オフセットが気になります。

3.ドライバコンプリメンタリペアの確保
 自前の選別でどこまで合わせ込みができるかやってみなければわかりません。

4.4チャンネル分の実装
 配置も決まった現行シャーシに、はたして4チャンネル実装できるのでしょうか?

5.MUSES01に勝る音質
 だめだった場合も想定して、現行基板も再実装しやすいように端子台改造します。

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それでは、ディスクリートアンプがオペアンプより音が良いという定説?が正しいか確認するため、回路設計、部品選定を進めます。

 

つづく(設計編)

 

自作アンプで年末を聴く(番外編5)

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番外編5

昨年(2016年)に真空管アンプを2台、トランジスタアンプを1台つくりましたが、それらのアンプで年末恒例の番組を聴いてみました。

おさらい

本題に入る前に、昨年つくったアンプの概要を改めておさらいします。

EL34バランス入力プッシュプルアンプ(S1503)

完成は2016年3月です。私にとって初の真空管アンプで、今では私の真空管アンプ製作のバイブルとなっている「情熱の真空管アンプ」を1ヶ月間読み込み勉強して、手探りで設計製作したものです。差動2段構成のオーソドックな回路構成ですが、バランス出力をしている点が特徴です。リップルフィルター、定電流回路は全て半導体で構成したハイブリッドアンプです。純A級動作で約8Wを出力します。

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BTL構成バランス入力モノラルA級DCアンプ(S1604)

このアンプは、先につくった真空管アンプの音の響きが予想外に良かったことから、トランジスタアンプの実力を試すために、一念発起して学生時代からあたためてきた構想を設計に反映して製作したものです。純A級動作で8WをBTL出力させるため、電源電圧を低く抑えることができ、低価格の部品を選定することができました。このメリットを教授して、片チャンネル当たり電源の平滑コンデンサとして10,000uFを10本使用しています。最終段はパラレルプッシュプル構成としてスピーカーの駆動力を高めています。ケースは見栄えを重視して選定したため、パネルが厚く、リアパネルのみ自前の加工をあきらめて、メーカーの加工サービスを初めて利用しました。BTL構成のアンプのため、アンプ基板は同じものを4枚つくる必要があり、製作途中でめげそになりましたが、完成後には私がイメージしていたBTL構成のA級DCアンプの音を出すことができて、作り上げた甲斐がありました。

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EL34バランス入力パラレルシングルアンプ(S1605)

シングルアンプに拘る方の拘りの理由を探るために、最初に製作したプッシュプルアンプと可能な限り部品を共通にして設計製作しました。大物部品では出力トランスのみシングル用を選定しましたが、それ以外の部品はほぼ共通となりました。部品を合わせた結果、小出力でありながらパラレルシングルアンプ構成となっています。EL34のシングルアンプなんてとおもいつつ設計製作をしましたが、プッシュプルアンプとの音の違いが私なりに理解できたので、よかったと思っています。尚、このアンプが現時点で私の常用アンプとなっています。

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年末を聴くために

年末恒例の生放送はTV番組にいくつかあります。今は放送がデジタル化されたため、生放送のメリットはないかもしれませんが、1年のしめくくりということでトライしてみました。私は2台のBDレコーダー(ディーガ)をもっていて、それでTV放送を聴こうとおもいますが、どちらともHDMI端子以外にオーディオ出力がありませんでした。ネット検索したところ、アマゾンでHDMI信号からオーディオ信号を分離して、光デジタル出力を出すアダプタ(DAC02)を見つけました。値段も2,599円と高くはなかったため、購入して試してみることとしました。

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使い方は簡単で、ディスプレイモニタとBDレコーダーを接続しているHDMI信号の間にこのアダプタを挿入するだけです。アダプタから出力される光デジタル信号を現行システムのUSB DACへCDプレーヤーの代わりに接続します。従ってアナログ回路は常用のシステムとなんら変わりない状態となります。モニターは娘が自室で使っている19インチのTVを借りました。

地デジの音

気になりネットで調べてみました。音質そのものではありませんが、デコード後のアナログ音声の帯域幅を個人調査した結果を公開しているサイト(デジタルTV放送音声カットオフ周波数の調査2014年版)を見つけました。方法はTV音声の光デジタル出力をパソコンに入力して周波数解析した結果から各放送局の音声信号のカットオフ周波数を推定するというものです。NHKは総合とEテレともに20kHzとのことで、良好と判定されています。デジタルの音声ビットレートNHK総合が256kbps, Eテレが144kbpsで、フォーマットはAAC / 48kHzサンプリングとのことでした。それでは年末恒例の番組を聴いてみます。

地デジNHK紅白

音は思いの他良いです。まずは先日完成させたシングルアンプで再生します。(本記事キャッチ写真参照)普通のTVでの再生を考慮してか、低音が100Hz近辺でブーストされていて、1000Mとの組み合わせではバランスがとれなかったため、スピーカーをフルレンジに切り替えました。聴きやすくなりましたが、曲によっては低音がまだだぶつきます。次に6月に完成させたモノラルBTL A級DCアンプに切り替えました。気になった低音のだぶつきが幾分抑えられてバランスが良くなりました。続いて2月に完成させた真空管プッシュプルアンプに切り替えます。(写真参照)低音のだぶつきが抑えられたまま、音の響きが増してさらにいい感じになりました。

地デジEテレN響"第9"演奏会

この放送は生放送ではありませんが、年末恒例の放送なので聴いてみました。紅白とは一転して100Hz近辺のブーストがなくなったため、スピーカーを1000Mに切り替えました。紅白の流れからアンプは真空管プッシュプルアンプでスタートです。

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映像付きの状態で十分CDの音質に対抗できてます。バランスも良いです。続いてモノラルBTL構成A級DCアンプに切り替えます。低音高音のバランスがさらに良くなりましたが優等生的なな鳴りっぷりです。

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最後にパラレルシングルアンプです。いきいきとした演奏、暖かみのある響きは3機種の中で一番いい感じです。結局この状態で最後まで聴いてしまいました。

まとめ

どちらの放送も音は良かったですが、紅白は常用システムではバランスがとれない調整となっている点が残念でした。Eテレの第9は無料で楽しめるHiFiプログラムとしてはおすすめです。来年もEテレは自前のシステムで聴いてみたいとおもいます。

 

おわり(年末を聴く)

 

ロクハンフルレンジスピーカー導入(まとめ編)

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まとめ編

組立が終わったロクハンフルレンジの音だしを行い、その印象を紹介します。

音の第一印象

当初の目的にそって、先日完成したバランス入力パラレルシングルアンプ(S1605)で鳴らします。一方、私のリファレンススピーカーはNS-1000Mですが、比較した音の印象は、とにかく音が前にでます。すごく明快な音です。ユニットの出力音圧レベルスペック92dB/mが示すとおり、能率も悪くありません。固めの音ですが、これは今後鳴らし込みを進める中で変わっていくと思っています。それではいろんな楽曲を順番に聴いてみます。

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■ピアノ
曲は山下洋輔ラプソディー・イン・ブルー」です。響きも悪くはありませんが、もともと1000Mのピアノの響きは定評があるため、音の厚みを含めてフルレンジは分が悪いです。音の飛び出しはフルレンジの方が良いため、この選択もありかもしれません。たくさん鍵盤を叩くように演奏する部分ではさすがに余裕がない感じがしました。音の定位はフルレンジの方が断然良いです。

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交響曲
曲はコバケンの幻想交響曲「断頭台への行進」で比較をしました。予想外に健闘してます。床を振るわす低音は1000Mのように出すことはできないので、音の厚みの点では聴き劣りしますが、1000Mとは違った響きの表現は悪くはありません。定位の良さに起因しているのでしょうか?

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■女性ボーカル
曲は井筒香奈江のLINDENBAUM「無意識と意識の間で」です。音が前に出て生き生き歌います。定位もいいです。その分ボーカルに関わる録音細部がアラも含めて表現されます。人の聴覚は人間の声に敏感と言われますが、再生の難しさを感じました。1000Mでも着目して聴くとアラも含めた細部を聞き取る事ができますが、全体的にマイルドな印象のため目立ちません。エージングが進むと固さが抑えられて1000M同様にマイルドな音に変わるかもしれません。

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■男性ボーカル
曲は小田和正の「僕の贈り物」です。オリジナルではなく1988年発売のBetween the word & the heartからです。女性ボーカルとは違っていい感じで聴けました。声のはりの表現も良く音が前にでます。一方、1000Mはマイルドな表現で響きが美しく感じます。

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アコースティックギター
曲はゴンチチのサウンドトラック盤からです。音が前に出る特徴から、弦をつまびくリアリティーさが伝わります。ギターの胴の響きは、エンクロージャーの木の響きとマッチして良い感じです。1000Mは後ろ方向の奥行きを感じますが、フルレンジは手前方向に音像を感じることから、1000Mの方が響が深くきれいに聴こえました。

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■ビッグバンド
曲は原信夫とシャープ&フラッツの「TAKE THE A TRAIN」です。定位が良いです。特に管楽器は、左右方向だけではなく上下方向の再現もできているように聴こえます。音の厚みに関しては、1000Mにはかないません。1000Mでは管楽器の自己主張が弱くなりその分後ろ方向の奥行き感が増すように聴こえます。

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フュージョン
今回はボブジェームスBJ ONEから「はげ山の一夜」を聴いてみました。音の厚みの表現がもの足りません。重低音も出せないので物足りない演奏です。後でトランジスタアンプで鳴らして比較したいとおもいます。

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BTL A級DCアンプで鳴らす

曲はBJ ONEから「はげ山の一夜」です。シングルアンプで鳴らしたときよりもオーバーダンプとなり、曲が荒く聞こえます。オーバーダンプになったため細部まで聞き取れるからかもしれません。音楽を楽しむ観点ではシングルアンプの方が良いと感じました。

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エンクロージャーについて

一通り曲を聴いてみたので、エンクロージャーについて考えてみました。バスレフのダクトの開口は実測値でφ=83mmでした。開口面積は5,408mm2と計算できます。一方ユニットの実効振動半径は65mmなので、振動板の実効面積は13,267mm2と計算されます。この結果から、ダクトの開口面積は、ユニットの実効振動板面積の41%となっていることが解ります。またユニットの最低共振周波数は50Hzで、エンクロージャー仕様からバスレフのチューニング周波数が54Hzとなっていて、これら2つの事象からこのエンクロージャーはバスレフの効果を欲張った設計となっていると考えられます。楽曲(特にドラムソロ)によって箱の音が聴こえるのはこの設計も関係していると考えられます。側板にt=15のパーティクルボードが採用されていますが、強度不足の可能性もあります。できれば側板の強度を上げて吸音材を増やして音を聞いてみたいとおもいました。せめて側板もMDFであればよかったのかもしれませんが、この価格では仕方ないでしょうか。

まとめのまとめ

正直なところ、この1組では事足りないと感じましたが、定位を重視して聴きたいときには、重宝に使えるスピーカーだとおもいます。結論はこの値段であればありだと思います。現状音が固いですが、鳴らし込みによってどのように変わっていくか楽しみが増えました。引き続き大事に鳴らしていきたいとおもいます。

 

おわり(ロクハンフルレンジスピーカー導入)

 

ロクハンフルレンジスピーカー導入(組立編)

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組立編

前回の記事で選定したユニット、エンクロージャーを購入して組立ます。

記事タイトル補足

記事タイトルのロクハンですが、説明が漏れていました。これは16cmの口径のことで、6.5インチからきています。今ではあまり聞かない呼び方ですが、フルレンジユニットの低高音のバランスを考えると、16cm口径のものが良かったことからこの口径のフルレンジスピーカーユニットを特別にロクハンユニットと呼んでいました。

購入

前回の記事で紹介したとおり、スピーカーユニット、エンクロージャーは楽天に出店しているムラウチで購入しました。どちらも2本セット販売で、単価(1本分)はそれぞれ税別・送料込みで8,500円と15,000円でした。12/18に注文して12/21に届きました。

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ユニットは2本(2箱)がムラウチ製の外箱に入れられています。エンクロージャーは2重梱包されたメーカーの梱包そのままです。

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ユニットの外箱は英語とフランス語の2カ国語表記されていました。さっそく箱を開けてみます。

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スピーカーユニット

ユニットは伏せた状態で箱に入っていますが、エッジはアップロール形状のため、そのまま箱に納めるとエッジが当たってしまいます。エッジをガードするために、プラスチックのカバーがついていました。付属品は木ねじとワッシャーが4組とパッキンです。特徴にセンターキャップがリッジドーム形状との記載がありましたが、購入するまで通常の形状との違いがわかりませんでしたが、現品を見て理解できました。

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見た目は今一つですが、f特のピークとディップが抑えられるとのことで、振動モードの解析結果が裏付けデータとして付けられていました。

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モデルチェンジの際に、このFFシリーズの中で唯一磁気回路が強化されただけのことはあり、見た目にも大きなマグネットがついています。

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エンクロージャ

バッフル板はt=21のMDF製です。裏板はt=15のMDFでそれ以外はt=15のパーティクルボード製です。t=21のMDFは見た目にも分厚く期待できます。スピーカーターミナルからの内部配線もされていてユニット側にはファストン圧着端子付がついています。

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バッフル板は裏側に補強桟が取り付けられていて強度を上げています。場所は中央からややダクト側に寄った位置です。ダクトは硬質の厚紙製ですが、バッフル面のみモールド製で見た目を良くしています。

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ターミナルはバナナ端子も挿すことができる比較的しっかりしたものがついていました。

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組立

組立といってもユニットの端子にファストンを挿して、ユニットを木ねじで固定するだけです。ユニットをバッフル板の穴に納めると、上下左右に10mmくらい動かせます。このためユニットの固定は左右を均等に、上側は左右2本で位置を合わせる必要があります。私はエンクロージャに付属のパッキンをバッフル板の丸穴に合わせておいて、パッキンの木ねじの穴位置を利用してバッフル板上へネジの位置出しをしました。キリで呼び穴を開けて、事前に木ネジを半分位までねじ込み一旦取り外します。

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木ネジ4本とも同じ処理が終わったらユニットを取り付けます、初めにスピーカーの端子に配線済みのファストンを接続し、忘れずにパッキンをバッフル板とユニットの間に納めてネジ締めします。ネジ締めの順番がマニュアルにかかれていて親切だと感じました。木ネジは強く締めすぎるとフレームが歪むと注意書きがありますが、適正な締め方の説明がありませんでした。私は、締めた後でフレームを指で押してフレームがぶかぶか動かなくなる所を目安に締め込みました。組み上がりは本記事のキャッチ写真を参照ください。

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次回は音出しと、音の印象を紹介したいとおもいます。

 

つづく(まとめ編)

 

ロクハンフルレンジスピーカー導入(構想編)

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構想編

製作完了したバランス入力パラレルシングルアンプ(S1605)と定位の良いフルレンジスピーカーで大編成の楽曲鳴らしてみたいと考えて常用できるフルレンジスピーカーの導入検討をします。

シングルアンプの音

繰り返しになりますが、製作完了したシングルアンプの音はのびのびと鳴り、プッシュプルアンプに比べて音の奥行きがより表現できています。この特徴を生かすことができると考えて、FOSTEXのFE103Enを使ったフルレンジスピーカーでいろんな曲を聴いてみました。小編成のボーカル曲は目の前で歌っているかのように聴こえる楽曲もあり良い感じです。ピアノ曲もいきいき鳴り、曲によってはペダルを踏む音も生々しく再現できていました。一方、大編成の楽曲は、音のバランスが中高域によっているため、正直なところ物足りません。このシングルアンプの特徴を生かして大編成の楽曲をフルレンジスピーカーで鳴らしてみたいと考えてより口径の大きいフルレンジスピーカーの導入を検討してみることにしました。

フルレンジユニット

ユニットの候補を選定するために、ネットで検索してみました。私が過去にスピーカー製作をしていたころは、国産ユニットとしてFOSTEXは当然として、それ以外にコーラル音響、パイオニア、ダイアトーン、松下といろんな選択肢がありました。高かったですが、JBLもフルレンジユニットを販売していました。検索の結果は、国産現役はFOSTEX製しかみつからず、唯一コイズミ無線が私の知らない海外製のスピーカーユニットを販売しているのが見つかりました。

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写真は14~19cm級のユニットの紹介ページの一部です。値段もピンキリで、素性を知らない私にはちょっと手が出せません。ただ、コアキシャルのユニットも複数ラインナップされていて興味がそそられました。今は冒険するほどの余裕がないため、今回は無難にFOSTEXのラインナップから選定することとしました。

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表はFOSTEXの16cmフルレンジユニットのラインナップの仕様をまとめたものです。

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表を見るとバスレフ方式を選択する場合は、選択の余地がなく一択です。バスレフ用は、振動系の重量m0をバックロードホーン用に比べて重くして高低音のバランスをとっています。この仕様の違いからバックロードホーン用のユニットをバスレフで使用すると、おそらく低音の量感が不足すると考えられます。今回は選択しませんが、参考として12cmフルレンジユニットのラインナップの仕様もまとめました。

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FOSTEX FF165WK

一択となってしまったFF165WKですが、口径は異なりますがその昔自作したコーラル音響の8A-70の外観に似ています。さらにそのルーツはJBLのLE-8Tでしょうか?それではFF165WKについて詳細に調べてみます。まずは公表されている特徴を転記します。

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■2層抄紙コーン
基層に長繊維木材パルプを使用し、高剛性化し、適度な内部損失をもたせ、表層には短繊維のケナフ備長炭パウダーを配合し、表面伝搬速度を高めています。
■エッジ
アップロール形状として高ストローク化し、ポリカーボネート材料を配合したウレタンフォームを使用して高損失で高ヤング率を実現しています。

私のポリシーでは、寿命面からウレタンフォームエッジのユニットは選択したくありませんが、ユニットの価格もそれほど高くなく、他に選択肢がないことからこの仕様を受け入れることとしました。このユニットは、FF165Kからモデルチェンジされて2011年の2月に発売されたとのことです。前機種との違いはネット上の「加藤ちゃんの日記」にまとめられています。私なりの理解を簡単にまとめると、前機種と比べてm0を増やして低域をより豊かにし、中域のハリを保つために磁気回路を強化したと読みとれました。仕様比較表も引用させていただきます。

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エンクロージャ

過去の私であれば、見栄えはあまり気にせずに木工による自作をしましたが、今の私の実力では、既製品の見栄えの足下にもおよびません。とは言え常用前提とすると、見栄えもそれなりのものを導入したいと考え、費用がかさみますが今回はFOSTEXが販売している推奨エンクロージャーを購入して組み立てることとしました。型番はBK165WBです。仕様は表のとおりです。

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ネットで検索すると、販売価格差はそれほど大きくはなかったので、貯まったポイントが使えることから、楽天に出店しているムラウチから購入することとしました。

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次回は、選定したこのフルレンジユニットを使ったスピーカーの購入・組立について紹介します。

 

つづく(組立編)