バランス変換ボリューム2(製作編3)

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製作編3

初段に使用するDual J-FETの変換基板実装とIdss測定を行います。

2SK2145の特性

今回も初段にdual J-FET 2SK2145を使用しますが、東芝製のチップなので今後が心配です。測定するIdssとは、Vgs=0の時のドレイン電流Idのことで、特性は以下のとおりです。

■2SK2145 Id-Vds特性

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グラフを見るとVdsとして2V以上印加すればIdが飽和します。今回の設計では、Vdsとして4V以上かけているので飽和領域で動作させていると言えます。あまり自信がありませんが、Vg=0Vのドレイン電流Id(Idss)を利用して定電流ダイオードが作られているとどこかで読んだ記憶がありますが、この情報が正しかったとして、一般的なダイオードとの機能の違いからこの呼び名に違和感を覚えますが、ダイオードの呼び名は単に2端子の素子と言っているだけなのでしょうか?初段に使用するので、ノイズに関するデータもついでに転載します。

■2SK2145 NF-Vds特性

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■2SK2145 NF-Id特性

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NF(雑音指数)は、入出力のS/N比(dB)の差を示し、増幅器のノイズ特性の指標となるパラメーターです。グラフを見るとNFは高電圧で使用すると悪化することがわかります。このチップの場合、Vds=15Vくらいまでに押さえて使用すべきと言えますが、電源電圧が高い場合は、カスコード接続によってVdsを下げることができます。また、Idが小さい範囲でもNFが悪化していますが、グラフからはId=0.75mA以上で使用すべき事がわかります。今回の設計は、バイアス電流としてId=1mAとしているのでクリアしています。

変換基板への実装

「音楽の女神への挑戦(製作編2)」で紹介済みですので、変換に使用した部品についてのみ簡単に紹介します。構成部品全て秋月電子の通販で購入したものです。金額は私が購入した時(2017年2月)の価格です。写真左からJ-FET 2SK2145-GR(100円/2個)、SOT23変換基板 P-04800(150円/10枚)、連結ソケット P-03758(50円)、丸ピンICソケット P-00035(15円)です。

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連結ソケットには上下がありますが、DIPソケットに装着したものを外す時の作業性を考えて写真の向きで使用しています。

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変換基板への実装は、当初罰ゲームと表現した程に苦痛でしたが、今回で3回目となり、コツもつかめたことからあまり苦になりませんでした。(キャッチ写真参照)

Idssの測定

測定の目的は、チップの故障および半田不良の確認および、dual J-FETとしてのペア特性の確認です。ペア特性については、改めてデータシートを確認してみたところ、「1パッケージに2素子を内蔵」とだけ記載があり、Idssのずれが大きくてもランク内であればクレームはつけられない状況です。今回購入したものはGRランクなのでIdss=2.6~6.0mAのものですが、この下にYランクと上にBLランクがあり、Yランクの最小値がIdss=1.2mAとなっています。アンプの設計のアイドリング電流は1mAなのでIdssの最小値の余裕を考慮して今回もGRランクを選定しています。製作編2で詳しく紹介したジグを使い、回路を下記のとおり組み替えてIdssの測定を行います。

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測定時の安定待ち時間は殆どいりません。今回実装した4個の測定結果は以下のとおりです。

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Idssはみごとに2パターンに分かれましたが、ペア特性は申し分ありません。どの程度影響があるかわかりませんが、L/Rチャンネルのバランスを考えて、入力段のボルテージフォロワの初段にIdss=3.4mAのもの(No.3,4)を、次段のバランス変換アンプの初段にIdss=4.2mAのもの(No.1,2)を使用したいとおもいます。

次回は基板への回路実装を行います。

 

つづく(製作編4)

 

バランス変換ボリューム2(製作編2)

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製作編2

前回詳しく紹介したジグをつかってトランジスタのhfeの測定を行います。

2SC1815GRのhfe測定準備

今回は40個の測定を行います。回路をジャンパーワイヤーを使って組み替えます。正しく接続されていることを確認するために、トランジスタをセットせずにBCE各端子の電圧を測定します。IcおよびIbが流れていないため、それぞれVc=5V, Ve=0Vで、Vbは半固定抵抗で5Vを分圧した電圧となります。測定時の調整後のVbは、Re=200Ω、Ic=10mAなので、2.6Vとなりますが、安全を見てVbを2Vにプリセットしておきます。

2SC1815GRのhfe測定

トランジスタ取り付け時は、ユニバーサル電源のSWで出力を必ずオフして装着時の端子接触順番による不安定な動作によるダメージを防止します。電源のSWを入れるとIcが流れてReの両端電圧が上がります。Re=200ΩでIc=10mAとするので、メーターの読み値を半固定抵抗を調節して2Vまで上げ、そのときのVrbの値をメモしていきます。地道な作業ですが同じ作業を測定個数分繰り返します。hfeが異なっても、エミッタフォロワ構成のため半固定抵抗の調整は殆ど影響を受けません。このため半固定抵抗はVbeのばらつき調整用と言えます。今回購入した40個の測定結果は以下のとおりです。

■2SC1815GR hfe測定結果

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GRランクにも拘らず全てのhfeが200を割っています。DCアンプ製作時に購入したものが3個残っていたので、同様に測定したところ3個ともに200を大きく越える値でした。(No.41-43)捺印にはランクを示すGRの文字が間違いなく入っています。(キャッチ写真参照)釈然としないまま次の測定を行います。

2SA1015GRのhfe測定

ジャンパーワイヤーの接続を変更して、PNPのhfe測定回路に組み替えます。NPN測定準備と同様にVbをプリセットします。電源電圧5VでIc=10mAとするので、調整後のVbは2.4Vとなりますが安全をみて3Vにプリセットして測定を開始します。NPNの測定時とIc調整の半固定抵抗の回す方向が反対になるので注意が必要です。(Vbを下げるとIcが増加)20個の測定結果は以下のとおりです。バランスボリューム改造の際に購入した残りのトランジスタも合わせて掲載しています。

■2SA1015GR hfe測定結果

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総じてhfeの値は小さいですが、1つを除き200以上なのでGRランクを唱っても問題ないレベルです。どうせ値が小さいならば、今回測定したNPN並に小さければ良かったんですがうまくいかないものです。今回は測定サンプルの数が多いので、測定後のトランジスタの保管用にケースを購入しました。ナンバーを振った小袋に入れるのは前回同様ですが、10づつに分けてケースの各列にナンバー順に保管し、必要な小袋を探しやすくしました。

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コンプリメンタリペアの選別

NPNは今回購入した40個中からhfeの大きなもの6個を、PNPは小さなものから6個を組み合わせました。

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ベストマッチでも誤差12%、6個の結果は19%以下とあまり報われない結果となりました。自分を慰めるために、たまたま一番特性の離れた組み合わせとなった場合の誤差を計算したところ、33%と余計に報われない感を増す結果となりました。追加購入も考えましたが、結果が改善する保証もなく、作業も遅れてしまうのでこのペアで進めることとしました。単なるペア品であれば十分数が確保できると考えると少し気分も晴れます。ネット情報によると、このオーディオ用パーツもご多分に漏れず、2011年頃に東芝ではすでに生産を終了しているとのことで、私が利用している秋月電子では、すでにセカンドソース品の販売が行われています。メーカーは台湾のunisonic社のものでNPN/PNP共に販売中です。今後の事を考えるとそちらを試すべきか思案中です。

次回はdual J-FETの変換基板実装とIdss測定を紹介します。

 

つづく(製作編3)

 

バランス変換ボリューム2(製作編1)

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製作編1

ディスクリートアンプ製作開始時定番のトランジスタのhfe測定を行います。

コンプリメンタリペア選別

バランスボリューム用アンプのディスクリート化の時と同様に終段トランジスタのコンプリメンタリペアの選別を行います。NPNは2SC1815GR、PNPは2SA1085GRと前回同様です。バランスボリューム用アンプのディスクリート化の際は、コンプリメンタリペアが4つ必要でしたが、今回は6ペア必要となります。このため、今回はNPNを40個、PNPを20個購入しました。せっかくなので、今回は選別に関して少し詳しく紹介します。

トランジスタの特性

トランジスタのhfe(直流電流増幅率)は重要なパラメーターです。今回購入したトランジスタはNPN, PNPともにGRランクで、hfeの選別範囲はどちらも200~400です。今まであまり気せず、実際に使用するコレクタ電流を流してhfe測定をしていましたが、改めてデータシートを確認してみました。グラフはhfe-Ic特性です。

■2SC1815 hfe-Ic特性

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■2SA1085 hfe-Ic特性

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グラフを見ると、実用範囲ではhfeはコレクタ電流に依存しない事がわかります。その代わり、周囲温度Taに大きく依存しています。これが熱暴走につながるバイポーラトランジスタの特性の一つです。前回測定時に電流安定まで時間がかからなかった事から、Ic=10mA, Vce=5V程度であれば自己発熱による温度変化は殆ど起こっていないものと思われます。逆に40個測定している間の部屋の温度を一定にしておく必要があると言えます。また、実使用時もペア特性が要求されるトランジスタは出来る限り接近して実装するか、熱結合して実装すべき事がわかります。せっかくデータシートを参照したので、ついでにft-Ic特性も転載します。

■2SC1815 ft-Ic特性

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■2SA1085 ft-Ic特性

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トランジスタのftとはトランジション周波数の事で単位はMHzです。このパラメーターは簡単に言ってしまうと、増幅性能がなくなる周波数で、数値が大きい程高周波特性が良いと言えます。どちらもデータシート上は最小値80MHzと唱われていますが、Ic=1mA時の最小値です。両トランジスタともにIc=50mA付近で最大となり、今回終段で使用するIc=10mA時の特性は300MHz程度と良好です。データシートを見出すと止まらなくなってしまうので、今回はこの辺にしておきます。

測定ジグ

今までも簡単に紹介してましたが改めて紹介します。ジグが対応するNPN, PNPの測定回路はそれぞれ以下のとおりです。ベース抵抗Rbとエミッタ抵抗Reは他の値も選択できます。(実体写真参照)

■NPN hfe測定回路

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■PNP hfe測定回路

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回路は安定したhfe測定ができるように、コレクタ接地(エミッタフォロワ)としています。ジグはNPN/PNPへの対応および、複数のIc値レンジに対応できるようになっています。回路の組み替え対応は、Arduino(汎用マイコン基板)を使った際に購入したピンソケットとジャンパーワイヤーで対応しています。

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Ic調整用ボリュームは、アンプでも使っている多回転半固定ボリュームを使い調整の精度を高めています。被測定用のトランジスタの装着は、レバー付きのDIP IC用のソケットを流用しました。写真の電源用と記載のピンソケットは分岐用に設けています。基板上の8pinDIP IC用のソケットは変換基板に取付けたdual J-FETのIdss測定用に実装しています。測定回路に必要な抵抗もピンソケットとジャンパワーヤーで選択可能としています。

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Icのモニタは、Re(エミッタ抵抗)にかかる電圧を測定しますが、メーター式のテスターを使用しています。感覚的に電流の大小が瞬時にわかるので好都合です。このテスターも年代もので、なんらかの実習の際にキットとして配布されたものを組み立てたものです。(キャッチ写真参照)Ib測定のためにベース抵抗の両端電圧Vrb読みとりますが、そのためのテスタはデジタル式が便利です。これも大学の実習(生まれて初めて差動アンプを設計製作した)時に秋葉原まで買いにいったものです。30年以上経過していますがまだまだ使えています。どちらも使用期間を考えるとコストパフォーマンスはかなり高いと言えます。

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今回はジグの紹介にスペースをとってしまいましたが、次回は「当たるも八卦コンプリメンタリペア選別は運次第」hfe測定結果を紹介します。

 

つづく(製作編2)

 

バランス変換ボリューム2(設計編)

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設計編

前回の構想に基づいてバランス変換ボリュームの新仕様を決定します。

ディスクリートアンプ

「パワーアンプの周波数特性(番外編7)」の記事の最後でも簡単に書きましたが、ディスクリート化したアンプを使ったバランスボリュームと、BTL方式DCパワーアンプの組み合わせの音は思いの外気に入りました。BTL方式ならではの駆動力による床を振るわす超低域、それでいて固くなりすぎない豊かな低音。弦楽器の美しい響き、管楽器の突き抜ける高音、それでいながら音量を上げてもうるさくなりません。この組み合わせの場合、バランスボリューム以降が左右完全独立電源で、回路も完全バランス動作+全段A級動作となり、信号電流が理論上電源に流れません。この音の瞬発力を生むための必須仕様だと考えています。せっかくなのでバランス変換ボリュームも同様の構成にしたいと考えました。

S1501バランス変換ボリューム

このユニットは、オーディオ趣味復帰後に製作した1号機ですが、オペアンプを使った簡単なバランス変換回路となっています。(キャッチ写真参照)当時、部品の入手に関する情報がまだあまりなく、電源トランスもチャチなものしか購入できなかった為、苦し紛れにトランスから左右独立電源仕様としてごまかしていました。そのトランスの電流容量は1機たったの60mAです。

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バランス変換アンプのディスクリート化と合わせてこれら心残りの仕様の変更も検討してみたいとおもいます。現行の回路図を参考に再掲載します。

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以上をまとめて今回の構想を改めて箇条書きします。

・現行品(S1501)を改造する
・心残りの電源回路も見直す
・バランス変換アンプをディスクリート化する
・今後の改造を考慮して、バランスボリューム同等の基板3枚+トランス配置とする

改造の効果を確認するために、最初にアンプ基板の載せ換えを行い音を確認し、次のステップで電源基板を載せ換えたいとおもいます。

ディスクリートアンプ回路

現状の回路のオペアンプを単純にディスクリート化すると、トータルで6チャンネル分のアンプが必要となります。現状のシャーシに、改造ベースで6チャンネル分のアンプ実装は無理がある為、新たに専用の回路を起こすこととしました。こう書くと大げさに聞こえますが、バランスボリュームで使ったディスクリートアンプ回路に反転出力用の終段を追加するだけです。

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2段目の差動アンプの出力として使用していない側へ反転出力終段用のバイアス回路を追加し、追加したコンプリメンタリペアの終段を駆動します。アンプの構成としては、マイナス入力が接地されたバランス入出力アンプの構成となります。このためアンプの入力は反転入力構成となるため、前段の出力インピーダンスによりアンプのゲインが変わってしまいます。ソース側のインピーダンスの影響をなくすために、バランス入出力アンプの前段にボルテージフォロワを追加します。以下が片チャンネル分の全体ブロック図です。この場合のアンプのゲインは入力に直列に入る抵抗と帰還抵抗の比率を2とすると正相および逆相それぞれ1倍となるはずです。

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左右のチャンネル分を2枚の基板に実装するため、1枚の基板にボルテージフォロワとバランス入出力アンプの搭載が必要となり、バランスボリュームのディスクリートアンプ基板よりもさらに部品点数が増えてしまうため実装しきれるか心配です。もう1点気になるのは、正相出力のみのアンプに比べて調整が難しくなる事です。正相と反転出力それぞれのオフセット電圧調整が、独立に行えないため、どこまで出力オフセットを追い込めるか心配です。調整の追い込み度合いは、実際にやってみないとなんとも言えません。

電源回路

ディスクリート化したバランスボリュームの音が良かったので、今回の電源回路もトロイダルトランスを含めてそのまま設計を踏襲する方針とします。先にも書きましたが、音の違いを確認するため、現状の電源のまま新アンプ基板の音出しを行った後で、電源回路の改造を行うつもりです。

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今回のアンプは、前回のバランスボリュームのディスクリート化と製作自体ほぼ変わりませんが、おつきあいいただけると嬉しいです。

 

つづく(製作編1)

 

バランス変換ボリューム2(構想編)

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構想編

アンバランス出力ソースの再生環境を改善したいと考えて構想します。

サルベージ

我が家にはロフトがありますが、魔窟と呼ばれるような物置となっています。普段はチョビと黒チョビ(どちらも耳の垂れてないスコティッシュホールド)の隠れ家となっているような場所です。(キャッチ写真は少し気分を変えて娘が撮ったチョビと黒チョビを掲載しています)そこには普段使わない、他人に言わせれればもう使わないものが雑然と積み上げられていますが、その中に昔使っていたオーディオ装置があることを思い出しました。どんな状態か気になり自室に引き上げてみました。

SONY K222ESJ

始めに引き上げてきたのは、SONYカセットデッキK222ESJです。

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その前に使っていたYAMAHAのK-1dが故障したため購入したものです。

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ネット上の情報によると発売は1993年で3ヘッドクローズドループデュアルキャプスタン、ダイレクトドライブ、クオーツロックとカセットデッキメカの集大成と言える仕様です。シリーズ最下位モデルということで定価65,000円とリーズナブルなお値段でした。購入時はすでに社会人となっておりオーディオの趣味から離れていたため、録りだめたソースの再生に使ったくらいで、たいして使った記憶がありません。肝心の動作は残念ながらしませんでした。開けてみたところお約束通りモードベルト起因の故障で、ベルトがコールタール状に溶けてモーター側のプーリーに張り付いていました。(写真中央)

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ネット上にはベルト起因の故障情報が溢れていて、有償修理する業者?の情報まで目に留まりました。どうしても聴きたいソースがあるわけでもなく、自前のメカ修理の自信がないので引き続き物置の肥やしとすることにしました。

SONY ST-S333ESX

次はSONYのステレオチューナーST-S333ESXで、前に使っていたパイオニア製のチューナー(TX-8800)が故障したため購入したものです。

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実はこのチューナーいつ買ったかの記憶がありませんが、すでにない相模原のオーディオユニオンで中古を購入したのかもしれません。発売は1986年でOptimaizer Technologyを複数段に搭載したとのことですが、名前から実動作が想像できません。凄いという事が伝わればいいものなのでしょうか?さすがにシンセサイザー式チューナーは可動部がないので動作は問題ありません。

S333ESXの音

私の家にはJCOMのCATVが入ってますが、それにはFM放送のサービスも含まれています。早々にチューナーをつないでみたところ、以下の7局が受信できました。

76.1MHz InterFM897
77.7MHz FMやまと
79.5MHz FM NACK5
80.0MHZ TOKYO FM
81.3MHz J-WAVE
82.5MHz NHK FM
84.7MHz FMヨコハマ

当然の事ながらこのチューナーには、バランス出力がないため、バランス変換ボリューム(S1501)と組み合わせて再生しています。音は30年前に発売になったチューナーとは思えないそこそこの再生ができています。

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局や番組によって音質が違いますが、全般的に低音が緩い印象です。原因がチューナーかバランス変換ボリュームかわかりませんが、先日バランスボリュームでオペアンプディスクリート化で良い結果がでたので、少しでもこのチューナーを良い音で鳴らしたいと思い、バランス変換ボリュームもディスクリート化の検討をすることにしました。

今回は余計な話題でスペースをとってしまいましたが、次回具体的な設計について紹介します。

 

つづく(設計編)

 

パワーアンプの周波数特性(番外編7)

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番外編7

前回につづき、製作済みのパワーアンプの周波数特性の測定を行います。

BTL方式A級DCパワーアンプ

終段およびドライバ段のトランジスタは、選別対応するためft=15MHzと特性を欲張らずに(サンケン2SC3851A/2SA1488A)入手性(安いものを大量に入手)を優先して選定しました。また、発振対策も攻めた定数選択をしたわけではなかったので、周波数特性が気になっていました。前回のプッシュプルアンプの測定では、ホット側のみの測定の考慮を忘れていたため、約0.4W出力時の測定となりましたが、今回は基準電圧を見直して約0.1W(8Ω)出力時の測定に変更しました。

測定および結果

測定方法は基準入力電圧以外前回同様です。その基準入出力電圧(1KHz)は 48mV/0.44Vで、ゲインは19.2dBでした。測定結果は以下のとおりです。前回測定したプッシュプルアンプの負帰還時の特性を一緒に載せています。

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DCアンプなので低域はフラットです。高域は600KHzで-0.4dBと測定範囲内ではほぼフラットです。トランジスタアンプの特性としては、まずまずだとおもいます。真空管アンプの特性と比べると文字通り隔世の違いがありますが、今までこの高域の特性差を聴感上の差として意識したことはありませんでした。音楽ソースがCDということも影響しているかもしれません。

パラレルシングルパワーアンプの周波数特性

最後に一番最近製作したパラレルシングルパワーアンプの周波数特性を測定します。1KHz時の基準入出力電圧は、42mV/0.44Vで、ゲインは20.4dBです。測定結果は以下のとおりです。低域は30Hzあたりから下がり始め、10Hzで約5dBダウンしています。高域は3KHzあたりから下がり始め、15KHzあたりで3dBダウンしています。正直パワーアンプとしてはひどい特性です。さしずめFM放送の電送特性とでもいいましょうか?

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念のため、別チャンネル(R)も測定してみましたが、ほぼ同じ特性でした。1KHzの基準入出力電圧は44mV/0.44Vで、ゲインはぴったり20dBでした。

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パラレルシングルパワーアンプ完成時の音の印象を過去の記事にさかのぼってピックアップしてみました。

・帯域はややナロー
・NS-1000Mが欧州製のフロア型スピーカーのように鳴る
・低音は予想よりも良く鳴る
・低音の床をふるわす超低域はプッシュプル方式に分がある

それなりに、この特性を表現しているような気はしますが、これほどの特性となっているとは想像できませんでした。原因を探るために回路図を改めて確認します。

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低域の特性は、終段のカソードの電解コンデンサの容量を増やせば改善できると思います。現状100uF/50V品が接続されていますが、特性測定時の出力波形が歪みぎみなので、増やしても音質改善につながるか疑問が残ります。おそらくシングル用のトランスの特性に起因していると思われます。1000Mが欧州製のフロア型スピーカーのような音で鳴るのは、この特性にもとづく色づけのような気がします。写真は10Hz測定時のものですが、出力波形(黄色)がひずみ始めています。

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高域の特性は、2段構成のシングルアンプでゲインをかせぐために、初段の負荷抵抗値を高めに設定した事と、プッシュプルアンプの初段は、1回路で1つの終段を駆動しますが、パラレルシングルアンプの場合1回路で2つの終段を駆動するため、初段の出力抵抗値が2倍の影響を与えます。さらにグリッド回路の入力容量も2倍となっているため、このような高域特性になっていると推測します。2段構成でパラレルとする場合、初段からパラレル構成とすれば上記の影響をなくす事ができると思いますが、そもそもこの出力クラスのシングルパワーアンプではたしてパラレル構成とする意味があったのかも確認してみたい衝動にかられてしまいました。それでも気に入った音を出しているので、当面このまま使い、時間をかけて対策を考えたいとおもいます。

まとめ

今回f特測定にダミー抵抗を使用しましたが、スピーカーのインピーダンスは周波数によって大きく変わります。一方、真空管アンプの終段のロードラインは、負荷インピーダンスによって影響を受けますが、これら両事象をどのように考えたらいいか気になりました。BTL方式DCパワーアンプの特性測定した際に、前回までの記事で紹介したディスクリートアンプ化したバランスボリュームと組み合わせて久々に音楽を聴いてみましたが、なかなか良かったです。アンプの基本回路がそろった事で、良い部分がより際だった結果とでもいいましょうか?この組合せで今度はピアノ曲を聴きまくってしまいました。次回からは、バランス変換ボリュームの改造について紹介したいとおもいます。

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おわり(パワーアンプの周波数特性)

 

パワーアンプの周波数特性(番外編6)

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番外編6

先日手に入れた低周波発信器を使ってプッシュプルパワーアンプの周波数特性を確認しつつ負帰還の効果、影響を確認します。

気になっていた事

以前、パラレルシングルパワーアンプ(S1605)を製作し、プッシュプルパワーアンプ(S1503)との音の比較をおこないましたが、パラレルシングルパワーアンプは無帰還、プッシュプルパワーアンプは負帰還をかけていて、方式差の音質比較をする上ではフェアでないとおもいつづけていました。一般的に考えると、負帰還をかければ特性が改善するため、プッシュプルパワーアンプの方が有利になると考えられますが、音楽を楽しむ観点ではパラレルシングルパワーアンプの方が良い結果となっていました。今回は、プッシュプルパワーアンプの周波数特性を確認しつつ、負帰還の有無で音の比較をします。

周波数特性の測定

「音楽の女神への挑戦(製作編6)」で紹介したとおり、KENWOOD低周波発信器を手にいれたので、バランス入出力パワーアンプの周波数特性の測定方法を考えてみました。発信器にはバランス出力はありませんので、バランス変換ボリューム(S1501)を使って発振器出力をバランス変換してパワーアンプに入力します。ゲインはポケットオシロの実効値表示から入出力の電圧を読みとって算出します。

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電圧のモニタは、入出力を共通GNDとするため、HOT側の信号のみで行います。パワーアンプの出力にはスピーカーの代わりに8Ωのダミー抵抗を接続しました。

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簡単な測定回路のブロック図を作成しましたので掲載しておきます。

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測定

1KHzの信号を入力して出力が約0.1Wとなるように入力信号レベルを調整します。その時の入力信号レベルをメモしておき、周波数を変えた際に同じ入力レベルに合わせて出力レベルを確認します。全帯域の測定が終わった後で今回の測定は、ホット側のみということを忘れていて、出力が4倍の約0.4Wで測定をしていたことに気づきました。。結果への影響がなさそうだったので今回はこのまま進めます。結果を格好良くグラフ化したいと思い、ネット検索をしたところ、エクセルを使ったツールを公開しているサイト(JK1EP真空管アンプの自作)を見つけました。グラフ化はこのツールを使わせていただきました。測定時の基準信号(1KHz)の入出力レベルは、0.128V/0.88Vで、ゲインは16.7dBでした。

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低域は10Hzまでフラットです。段間のコンデンサを意識して選択したかいがありました。高域は20KHzまではフラットで100KHzで3dBダウンしています。ホット側のみの測定ですが、バランス出力時とf特の結果は変わらないはずです。

無帰還化

久々にプッシュプルアンプ(S1503)のシャーシを開けてみました。私自身の真空管アンプ初号機のため、2作目パラレルシングルアンプ(S1605)の配線と比べて雑な部分が目につきます。帰還信号ラインはトランジスタアンプでは考えられない程の線長となっています。暫定対応としてその配線のアンプの入力側の接続を外します。(写真の矢印4カ所)外した配線はショートしないようにテープ止めしておきます。

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この状態で負帰還時と同様に周波数特性の測定を行います。基準信号レベルは、0.068V/0.84Vでゲインは21.8dBとなります。負帰還時のゲインとの差5.1dBが帰還量となります。

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負帰還のお手本のような結果となっています。低域は10Hzまでフラットで変わらず、高域は10KHzからゲインが下がり初め、50KHzで3dBダウンしています。この特性のみを見ると負帰還は魔法のように思えますが、帰還をかけているラインの線長を考えると副作用のある薬のように思えてきます。

無帰還アンプの音

帰還をかけていたときの音は、響きがきれいで繊細な音がしました。音楽を生き生き鳴らすという面では、シングルアンプに劣っていました。帰還を外すと、響きの美しさはそのままで、繊細さは後退しますが、音楽がいきいき鳴ります。シングルアンプにはない、躍動感のある低音はそのままです。しばらくはこの状態で使いたいとおもいます。この後、70年代録音のアルバムを聴き込んでしまいました。アコーステックギターいい感じに響いています。

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次回は引き続き、製作済みのパワーアンプの周波数特性の確認を進めます。

 

つづく(番外編7)