無帰還広帯域真空管アンプ(構想編7)

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構想編7

さらに回路を変更して広帯域化できないかを引き続き検討します。

SRPP3回路

前回の記事の検討で、終段のゲインを下げて終段入力部のミラー容量を下げました。その際に出力トランスの2次巻き線の接続変更を行いました。終段のゲインを下げましたが出力トランスの巻き数比も変わったため、出力段以降のトータルのゲインは変わらない事がわかりました。前回は終段以降のゲインが下がる事を前提に初段管を12AX7に変更した事で、初段の出力インピーダンスが高くなりかえってカットオフ周波数が低くなってしまいました。今回は初段管を12AY7に戻して再検討を行います。組み合わせとしては、初段がSRPP回路1で終段回路がSRPP回路2となります。初めにSRPP回路1の初段のロードラインを再掲載します。

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上が初段負荷部分のロードラインで下が初段管のロードラインです。出力関連の抵抗値を整理してみます。

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続いて終段のロードライン(SRPP回路2)を再掲載します。

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この結果を回路図に反映しました。

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ロードラインとややずれていますが、初段と終段の電源電圧は180Vです。

SPRR回路3ゲインの計算

上でまとめた初段出力関連抵抗値を使い下記のとおり各段のゲインを算出します。

初段ゲイン = 40 x 90 / ( 26 + 90 )

      = 31.0(29.8dB)

終段のゲインと出力トランスのゲインはSRPP回路2と同様となります。

終段ゲイン = 22 x 2.5 / ( 2.4 + 2.5 )

      = 11.2(21.0dB)

出力トランスゲイン = SQRT( 8 / 5000 )

          = 0.04(-28.0dB)

上記の結果を表にまとめてみました。

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SPRR回路3のゲインは現行アンプとほぼ同等である事が確認できました。

SPRR回路3初段出力fc

初段出力部のカットオフ周波数fcを求めてみます。その為に一次フィルタを構成する容量を整理しました。

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容量値はSPRR回路2と同等です。一次フィルタを構成する抵抗値Zoは上でまとめた表から17.7kΩです。この結果から初段出力部のカットオフ周波数fcを求めてみました。

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fcは210kHzと高くする事ができました。

SPRR回路4

効果は薄いですが、せっかくなので発振防止用のゲート抵抗も見直してみます。SPRR回路3までは2.7kΩとしていましたが、1kΩに下げてみます。抵抗値一覧に追加してみました。

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この結果Zoは17.7kΩから16kΩに下がりました。Ciは変わらない為初段出力部のカットオフ周波数fcは以下のとおりとなります。

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SPRR回路3のfcに比べてやや周波数が上がりました。上記を反映した回路図は以下のとおりです。

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SPRR回路4周波数特性

構想編4で周波数特性をシミュレーションしましたが、その式を再掲載します。

Gain = 1 / SQRT ( 1 + (2πfZoCi)^2)

ここのSRPP回路4のパラメータCi=42,9pFとZo=16kΩを適用して初段の周波数特性をシミュレーションしてみました。

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十分ではありませんが、グラフ上で目に見えるレベルで改善する事が確認できました。この結果に構想編4で求めた出力トランスの周波数特性を加えて現行機の特性と比較をしてみます。

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この結果を見ると、改善はグラフ上で視認できますが、ごくわずかです。さてどうしたものか・・・?次回の記事まで悩んでみます。

 

つづく(構想編8)

2020年末を聴く(番外編42)

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番外編42

あけましておめでとうございます。恒例(今回で5回目)となりましたが自作アンプで高品質な年末の特別番組を聴いて、2020年を振り返ります。

2020年

昨年は新型コロナウィルスへの対応を続けた一年でした。1月末の春節の途中に、中国で海外渡航が禁止された事が直接日本への影響の発端だったと記憶してます。2月までは、大阪や群馬に出張に出ていましたが、3月頃からそれがなくなり、4月には初めてテレワークを体験しました。ほぼ週に2日、約1.5ヶ月間自宅ワークを行いましたが、遠距離通勤をしている為、負担軽減も含めて感染リスクを減らす効果は大きかったとおもいます。例年参加してきたオーディオ関連のイベントものきなみ中止となり、昨年は1度もイベント参加できませんでした。年末の特別番組もほぼ無観客開催となったので、いつもとの違いを聴いてみました。

視聴システム

今回は一昨年からまったく手を入れていません。

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システムブロック図と真空管ヘッドフォンアンプの回路図を改めて見て、次はアンプの裸ゲインを下げて無帰還の真空管ヘッドフォンアンプを設計してみたいとおもいました。

紅白歌合戦

今年は元旦が金曜日となり記事を書く時間が限られている為、対象の番組を紅白に絞ります。無観客という事でいつもの年よりも純粋に音楽を楽しめた感じがしました。特にDocumentary filmやうちで踊ろうなどスタジオライブの楽曲は音にもこだわりが感じられ良かったとおもいます。一番耳に残った曲は愛をこめて花束を/Superflyでした。東京フィルが演奏しているホールでの熱唱圧巻でした。

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せっかくなので例年の開催のこだわらずにもっと大胆に無観客でなければできない演出があっても良かったように思いました。

2020製作振り返り

下記が昨年公開した各製作記事の最初の投稿日です。

・2020-02-14:Hgh-ch用アンプ製作

・2020-05-26:DACユニットの検討

・2020-10-30:DACユニットの製作

・2020-12-01:ユニットメンテナンス

DACユニットの製作

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上記を見ると、昨年は半分近くをDACユニットの製作に費やした事になります。ブロックごとに分割された基板構成だったので、ノイズに苦労するかとおもいましがた問題とはなりませんでした。

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評価に初めてオシロスコープFFT機能を使ってダイナミックレンジの確認をおこないました。

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オシロスコープにはアンチエイリアスフィルタが内蔵されていないので、サンプリング周波数に応じたフィルタを準備する必要はありますが、1024サンプルでwindow選択も可能でFFTアナライザとして十分使用する事ができました。下記はCDの1KHz/-60dB再生時の出力信号のスペクトラムです。

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この結果からダイナミックレンジは約110dB確保できている事を確認できました。このDACユニットはArduino UNOを制御基板として使った製作の2作目となり、ソフト開発もスムーズにできました。

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このユニットの導入によってウーハーチャンネルは完全DC化する事ができ、音は現場のモニタ環境に近づける事ができたのではと思っています。

High-ch用アンプ

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マルチアンプシステムのツイーター用アンプとしてより広帯域なアンプを製作しました。回路構成は従来と変更せずに使用する真空管の見直しにより帯域の拡大を行いました。初段管は12AY7でμ値は12AX7より小さくなるものの、内部抵抗rp値は小さくなります。出力段は他のチャンネルに比べて出力を稼ぐ必要がないので双三極管6N6Pを採用しました。下記が製作前に使っていたアンプの真空管のパラメータ比較表です。(一部パラメータは推定値)

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回路図は以下のとおりです。

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製作の結果、下記のとおり周波数特性の改善確認ができました。

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音は予想以上の変化があり、特に前後方向の定位感が明確になりました。現在2匹目のどじょうを探して回路変更による周波数特性改善検討を行っています。今年もマイペースで製作を進めるつもりなのでおつき合いいただけるとありがたいです。

 

おわり(番外編42)

無帰還広帯域真空管アンプ(構想編6)

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構想編6

前回の記事で設計したSRPP回路は改善量が今一つだったので、回路変更により改善量アップを検討します。

SRPP回路2

カットオフ周波数は、終段のミラー容量の影響を大きく受けるため、初段と終段のゲインバランスを見直してみます。終段のゲインを下げる為に、出力トランスの二次タップの接続を変更して、終段の負荷抵抗を下げます。代わりに初段のゲインを上げる為に初段の真空管を12AX7に変更してみます。プッシュプル用の5kΩの出力トランスを普通に(8Ω端子に8Ω負荷を接続)使用する事により、終段のロードラインの負荷抵抗は2.5kΩとなります。現行アンプよりもロードラインの傾きがきつくなるため、動作領域の直線性が下がりますが、バイアス電流を15mAとしてロードラインを引いてみました。

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この場合のプッシュプル時の出力は以下となります。

Po = (15mA / SQRT(2))^2 x 5k

= 0.57W

次は初段のロードラインを引いてみます。初段負荷の真空管回路はSRPP回路1と同じ(12AY7使用)とします。

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ロードラインは構想編5で引いたものと同じです。初段管は12AX7に変更してゲインアップを図ります。負荷抵抗はSRPP回路1と同様に90kΩなので、ロードラインは以下のとおです。

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上記設計を回路図に反映してみました。

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初段の電源電圧は240Vに上がってしましました。上記のとおり出力トランスの2次巻き線は8Ω端子を使用しています。

SRPP回路2ゲイン計算

上記の初段管のロードラインからrp=70kΩと読みとれるので、初段ゲインに影響する抵抗値をまとめてみました。

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表中にはありませんが、初段の等価負荷抵抗は120kΩ || 390kΩなので約90kΩとなります。従って初段のゲインは以下のとおりです。

初段ゲイン = 100 x 90k / ( 70k + 90k )

      = 56.3(35.0dB)

続いて終段のゲインを計算します。上記の6N6Pのロードラインの動作点における接線の傾きからrpを求めます。

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上図からrp=2kΩとなっているので終段のゲインは以下のとおりとなります。

終段ゲイン = 22 x 1.25k / ( 1.25k + 2k )

      = 8.5(18.5dB)

最後に出力トランスの減衰量を計算します。電圧比は巻き数比に比例します。巻き数比は定格抵抗の平方根で求められます。

出力トランスゲイン = SQRT( 8 / 5k )

          = 0.04(-28.0dB)

上記で計算したゲインをまとめてみました。

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この結果を見ると出力トランスを含めた終段のゲインは変わらずに、初段ゲインが増えた分、トータルゲインも増えています。

初段出力終段入力部fc

SRPP回路2の初段出力と終段入力部で構成される一次フィルタのカットオフを試算してみます。初めにカットオフに関連する容量値をまとめてみます。変化点は終段のゲインが下がった事でミラー容量が小さくなります。

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回路変更の結果カットオフ周波数を決めるCiを53.7pFから42.9pFに小さくする事ができました。初段ゲインを計算するためにまとめた抵抗一覧表からカットオフ周波数を決めるインピーダンスZoは25.8kΩとなっています。この結果からカットオフ周波数fcを計算してみました。

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結果は容量値は下がったものの抵抗値が上がってしまったためfcは逆に下がってしまいました。なかなかうまくいかないものです。次回はさらに回路検討を行ってみます。

 

つづく(構想編7)

無帰還広帯域真空管アンプ(構想編5)

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構想編5

前回の記事に引き続き現行アンプの周波数特性のシミュレーションの精度アップについて検討します。

前回のおさらい

現行のHigh-ch用アンプの周波数特性を初段出力と終段入力部の一次フィルタと、出力トランスと負荷抵抗の一次フィルタにモデル化してシミュレーションを行いました。その結果は以下のとおりです。

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上図は実測値とシミュレーション結果ですが、いい線まできていますが一致していません。肩特性を見ると一致しているので他のポールが影響を与えているとは考えにくいです。そうするとシミュレーションで使ったLCR値の実際とのズレを疑う必要があります。

LCR値の見直し

なぜ細かな点に拘るのか説明しておきます。ざっくりSRPP回路による無帰還アンプの周波数特性の改善検討を行ってみましたが大きな改善は難しそうな事がわかってきました。そんな検討をしていたところ、その昔カセットデッキの周波数特性が16kHzから18kHzに改善した事に大きな喜びを感じた事を思い出しました。今回もそのレベルの改善の可能性検討になりそうと考えて周波数特性のシミュレーション方法に拘っています。本題に戻ります。まず頭に浮かんだ点は配線の浮遊容量です。ネット上で調べてみると、0.5pF程度との事なので値としては小さいですが、ミラー容量への影響はそれなりになると考え直して、考慮してみる事にしました。前回の記事で使った容量値に対して、終段真空管のCgとCgaに0.5pFを加算しました。シミュレーションに使用する容量値を整理します。

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終段の入力容量は、ミラー効果により47.2pFから53.7pFと6.5pF増えました。この値を使って初段出力と終段入力間の周波数特性のシミュレーションをやり直してみました。

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グラフは初段出力と終段入力部間の前回のシミュレーション結果との比較です。ややカットオフが下がりました。この結果と出力トランスの特性を合わせて測定結果と改めて比較します。

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前回の結果よりも実測値い近づきましたが、依然として差が残っています。さらに考えてみましたが結果に近づける根拠のある要因が思いつきません。仕方がないのでこの結果を現行機の特性と仮定して、改善検討を行う事にします。

SRPP回路設計1

構想編2で検討しましたが現行機の初段負荷を真空管回路に置き換えてみます。初段をIp=1mA、等価負荷抵抗を約100kΩを念頭にSRPP真空管負荷回路のロードラインを引いてみました。

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rk=2kΩで等価負荷抵抗値が120kΩ、出力抵抗が38kΩとなっています。この時の初段管のロードラインを引いてみます。

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負荷抵抗値はSRPP回路等価負荷抵抗値120kΩと終段入力部の390kΩの並列接続となるため、90kΩとしています。rpは動作点のVp-Ip特性の傾きなので26kΩと推定しました。終段は現行機と変更していません。上記を回路図に反映してみました。

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電源回路は後で考えるとして本回路の初段出力部の抵抗をまとめてみました。

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上記表のパラメータ間の関係は以下のとおりです。

Ro = rp || Rl || Ri (||は並列接続を意味します)

Zo = Ro + Rg

この結果を見ると初段出力と終段入力部のフィルタを構成するZoは18.7kΩから17.7kΩに改善しますが、改善量はいまひとつでした。なかなかうまくいかないものです。次回は回路の見直しにより改善量のアップの検討を行います。

 

つづく(構想編6)

無帰還広帯域真空管アンプ(構想編4)

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構想編4

前回確認した各段のゲインの計算結果を使って現行アンプの周波数特性をシミュレーションしてみます。この目的は今回設計する広帯域アンプの周波数特性のシミュレーション方法の妥当性の判断を行う事です。

現行アンプ帯域幅計算

現行アンプの回路図を改めて掲載します。

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まずは初段出力と終段入力部で構成される一次フィルタについて考えてみます。回路図を元に一次フィルタをモデル化してみました。

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Roは初段の負荷抵抗と真空管のプレート抵抗rpの並列値です。初段の負荷抵抗は回路図から100kΩ、初段真空管のプレート抵抗rpは前回の記事から20kΩとなります。まずは初段の出力抵抗に関するパラメータを整理してみます。

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Rgは終段真空管のグリッドに接続された抵抗です。終段のグリッドから見た初段の出力抵抗Zoは以下と考えられます。

Zo = ( rp || Rl || Ri ) + Rg ||は並列を意味する

この式に各パラメータを適用するとZoは18.7kΩとなりました。次に上記抵抗との組み合わせで一次フィルタを構成する容量についてまとめてみました。

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Cg、Cgaは終段の真空管のグリッド容量とグリッド-プレート間容量です。Cgaには終段のゲインによって入力電圧の(A+1)倍の電圧がかかる為、入力から見た容量はCga x ( A + 1 )となります。(ミラー容量)従って終段入力部の容量CiはCg + Cga x ( A + 1 )となります。表中の値は6N6Pの仕様書から拾った値と、前回の記事で算出したゲイン値です。上記の式を適用すると終段入力部の容量は47.2pFと算出できました。

現行機のf特シミュレーション

上で算出したZoとCiを使った一次フィルタのゲインを計算してみます。

Gain = ( 1 / jωCi ) / ( Zo + ( 1 / jωCi ))

= 1 / ( 1 + jωZoCi )

となります。ゲインの実効値は以下となります。

Gain = 1 / SQRT ( 1 + (2πfZoCi)^2)

ここでZo = 18.7kΩ、Ci = 47.2pFを適用して周波数特性のグラフを作成してみました。

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図は計算結果と、現行機アンプ製作時に測定した結果です。グラフに大きな開きがあります。どうしたものか・・・

出力トランスの影響

下記は採用した出力トランス春日電機KA-5-54Pの仕様です。

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周波数特性として60kHz -0.5dBと掲載されています。この特性をLRの一次フィルタと想定して影響を推定してみました。回路は以下のとおりです。

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この回路のゲインは以下のとおりです。

Gain = R / ( R + jωL )

= 1 / ( 1 + jω(L/R))

このゲインの実効値は以下のとおりです。

Gain = 1 / SQRT( 1 + (2πfL/R)^2)

この式にf=60kHz, Gain=-0.5dB (0.944)を代入してL/Rを算出しました。算出した結果を使って周波数特性をシミュレーションしてみました。

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図は上記算出結果と、先に算出した初段出力と終段入力部の一次フィルタの特性およびその両者を加算した結果をグラフ化しています。今回のアプリケーションは、4Ω出力端子に8Ω負荷を接続しているため、実際の結果とは異なる?事を頭におきながら結果を評価したいとおもいます。予想外に出力トランスの特性が影響を与えている事がわかりました。この総合特性と測定結果を比較してみます。

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だいぶ実特性に近くなってきましたが、まだ差があります。次回はこの差についてさらに検討してみます。

 

つづく(構想編5)

無帰還広帯域真空管アンプ(構想編3)

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構想編3

回路設計後に周波数特性のシミュレーションが必要な為、現行機を使って周波数特性のシミュレーションを行いその方法の妥当性の確認を行います。

現行High-chアンプ各段ゲイン

改めて回路図を掲載します。

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周波数特性のシミュレーションには各段の入力部のミラー容量が必要な為、算出用に格段のゲインを求めてみます。図は初段の等価回路です。図は初段の等価回路です。

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図でRlは初段の負荷抵抗で100kΩ、Riは終段の入力抵抗で390kΩ、rpは初段真空管のプレート抵抗で仕様書上は22.7kΩです。より正確にゲインを求める為に、初段のロードラインからrpを求めてみます。下記が現行機の初段のロードラインです。

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動作点のプレート電流Ipは1mAです。負荷抵抗はRl(100kΩ)とRi(390kΩ)の並列となるので約80kΩとなります。動作点のプレート抵抗rpは、Vg一定としてΔVp/ΔIpなので動作点のVp-Ip曲線の傾きとなります。図から20kΩと読みとれました。初段真空管12AY7のμは40です。この結果初段のゲインは以下のとおり算出できます。

初段ゲイン = 40 x 80k / ( 20K + 80K ) = 32 (30.1dB)

続いて終段のゲインを算出します。等価回路は初段と同じですがRiはありません。Rlは、プッシュプル用の出力トランスの4Ω出力に8Ωの負荷を接続しているため、Rlは2.5kΩ(5K / 2 /2 x2)となります。プレート抵抗rpは初段と同様に終段のロードラインから求めてみました。

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動作点からVgの値が動作点から少しずれますが、rpは2kΩと読みとりました。終段真空管6N6Pのμは22です。この結果から終段のゲインは以下のとおり算出できます。

終段ゲイン = 22 x 2.5k / ( 2.0k + 2.5k ) = 11.2 (21.0dB)

最後に出力トランスのゲインを計算します。1次と2次の電圧比はコイルの巻き数比となります。コイルの巻き数比は、定格負荷抵抗の平方根で求めることができます。出力トランスは春日無線のKA-5-54Pで、1次側P-P間の定格負荷は5kΩで、4Ωの二次巻き線を使用しています。この時の巻き数比は以下で算出できます。

巻き数比 = SQRT( 5000 / 4 )= 0.0280

2次巻き線もバランス出力していると考えると、真空管1本あたりの終段のトランスの巻き数比は上記そのままとなり、巻き数比が電圧比となるため、出力トランスのゲインは以下となります。

出力トランス利得 = 0.0280 (-31.1dB)

この結果を表にまとめてみました。

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実機測定

上記算出結果の妥当性を確認するために、実機でゲイン測定を行いました。

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入力は400mVpp(バランスでは800mVpp)1kHzの正弦波を入力しました。本記事のアイキャッチ写真は測定時のものです。信号は発振器出力を先日の記事で修理したBTLアダプタに入力してバランス信号に変換して生成しました。格段の波形は以下のとおりです。

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写真上が初段出力波形で、下がが終段出力波形です。どちらも上段ch1はアンプHot側の入力波形です。アンプ出力は8Ω負荷で3.84Vppでした。測定結果を整理します。

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この測定結果と先に計算したゲインを比較してみます。

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結果はほぼ一致しました。帯域計算用のミラー容量計算のためのゲインは今回の算出方法を使用する事とします。次回は現行機の帯域を試算して測定結果と比較してみます。

 

つづく(構想編4)

無帰還広帯域真空管アンプ(構想編2)

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構想編2

SRPP回路の特性について考えてみます。

SRPP回路

構想編1で描いたとおり初段の差動アンプをSRPP構成としてアンプの広帯域化を検討してみます。回路は初段の負荷抵抗を真空管回路で置き換えた構成となっています。最初に負荷抵抗を置き換えた真空管回路を見てみます。

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図は初段の負荷抵抗RLを置き換えた真空管回路とその等価回路です。まずは出力電流Io=0(次段の入力インピーダンス無限大)としてI/V特性を考えてみます。真空管を流れる電流をIpとすると真空管回路の両端電圧Vlは以下のとおりとなります。

Vl = Ip x Rk + μ x Vg + Ip x rp

= Ip x Rk + μ x (Ip x Rk) + Ip x rp

この回路の等価抵抗ZlはVl / Ipなので、

Zl = Rk + μ x Rk + rp

= Rk x (1 + μ) + rp

となります。rpが小さければ等価負荷抵抗Zlは約Rkの約μ倍となります。この時の出力インピーダンスを考えてみます。出力インピーダンスZoはΔVl / ΔIoです。下側の真空管でIpは一定と仮定して等価回路を眺めると、Zoはrpと考えられます。以上を整理すると、μの大きな真空管を選び、Rkを適当な値とすると、等価負荷抵抗Zlを大きくとる事ができ、初段のゲインを上げる事ができます。尚このときの後段から見た初段の負荷インピーダンスはrpとなると考えられます。

SRPP回路特性

真空管を12AY7としてSRPP回路の特性を考えてみます。わかりやすくするためにRk=2kΩとしてみます。

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動作点を仮にIp=1mAとするとRk=2kΩなので、Ip=1mAとVg=-2Vの交点が動作点となり、その時のVpは108Vになります。Rk=2kΩを前提にIpとVgのポイントをさらにマーキングします。

Ip=0.5mA Vg=-1V

Ip=1.5mA Vg=-3V

この3点を結ぶとほぼ直線となります。

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この図から上記3点の真空管にかかる電圧Vpを読みとります。

Ip=0.5mA Vp=45V

Ip=1.0mA Vp=108V

Ip=1.5mA Vp=165V

上記の3点からΔIpとΔVpを計算します。

ΔIp=0.5mA ΔVp=63

ΔIp=0.5mA ΔVp=57

上記の2セットのパラメータから等価インピーダンスを計算すると以下となりました。(電圧値にRk印加電圧も加算する必要がありますが、小さいので無視しています)

Zl1=126kΩ

Zl2=114kΩ

上記からこの回路の等価インピーダンスは約120kΩと考えられます。

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抵抗に比べて非直線な特性ですが、差動方式でどこまで打ち消す事ができるか気になります。動作点におけるrpですが、動作点Vg=-2V, Ip=1mAのVp-Ip曲線の傾きと考える事ができますので、おおざっぱに接線を引いてみました。直性の傾きから動作点におけるrpは38kΩと読みとれました。上記の結果を整理すると以下となります。

・本回路の等価インピーダンスZlは約120kΩ

・本回路の出力インピーダンスZoは約38kΩ

いくつか仮定を設定している為、実際の状況と異なるかもしれませんが、概ねこんな感じかとおもいます。この結果初段のゲインを上げるために等価インピーダンスを大きくとっても、初段の出力インピーダンスはその約1/3とする事ができ、初段出力部と終段入力部で構成されるLPFのカットオフ周波数を高くする事ができると言えます。次回はSRPP方式の初段用差動アンプを設計してみます。

 

つづく(構想編3)