無帰還広帯域真空管アンプ(まとめ編1)

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まとめ編1

今回から数回に分けて、本製作のまとめを行います。

製作の概要

無帰還広帯域のマルチアンプツイーター駆動用のアンプを製作します。真空管の選択は現行アンプと変えずに、初段にSRPP回路を適用して初段のゲインをかせぎつつ、出力インピーダンスを下げて終段入力部のカットオフ周波数を上げました。出力トランスの使用タップを変える事で巻き数比を下げて、出力トランスを含めた終段のトータルゲインを変えずに、終段のゲインを下げてミラー容量を減らしました。

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SRPP回路

下図はSRPP上側真空管の等価回路です。

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この等価回路からa-b2端子間の等価抵抗Rlと出力インピーダンスRoは以下のとおりとなります。

Rl = rp + (μ + 1) x rk

Ro = rp

rp:22.8kΩ(12AY7仕様書より)

μ:40(12AY7仕様書より)

rk:2.0kΩ(回路図より)

上記を代入すると以下となります。

RL = 22.8k + (40 + 1) x 2k = 105kΩ

Ro = 22.8kΩ

SRPP回路の真空管の選定(μとrp)とrkの設定により、Rlを高くして初段のゲインを稼ぎ、Roを小さくする事ができました。

ロードライン

何回かの試行錯誤を行った結果、各真空管のロードライン設計は以下のとおりとなりました。

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上から初段差動入力用真空管、SRPP真空管、終段真空管のロードラインです。このロードラインから8Ω負荷A級動作の最大出力は0.57Wとなります。

各段のゲイン

■初段ゲイン

以下の式で計算できます。

μ x RL / (RL + rp)

各パラメータは以下のとおりです。

μ:40(12AY7の仕様書より)

RL:105kΩ(SRPP等価抵抗値)

rp:20kΩ(上記の初段差動入力真空管ロードラインより)

これらの値を代入すると以下のとおりとなります。

40 x 105k / (105k + 20k) = 33.6 (30.5dB)

■終段ゲイン

同様に以下の式で計算できます。

μ x RL / (RL + rp)

μ:22(6N6P仕様書より)

RL:1.25kΩ(終段ロードラインより)

rp:2.0kΩ(上記終段真空管ロードラインより)

これらの値を代入すると以下のとおりです。

22 x 1.25k / (1.25k + 2.0k) = 8.5 (18.6dB)

■出力トランスゲイン

一次二次の定格抵抗値の入出力電力は同じになるため、以下の式でゲイン計算できます。

SQR(8 / 5k) = 0.04 (-28.0dB)

■トータルゲイン

上記ゲインを総合すると以下となります。

33.6 x 8.5 x 0.04 = 11.4 (21.1dB)

周波数特性

設計時にいくつかの回路でカットオフ周波数を試算しましが、最終的に設計は以下のとおりに落ち着きました。

■終段入力容量

Cgk + (1 + A) x Cga

Cgk:4.4pF + 0.5pF(6N6Pの仕様書より、0.5pFは配線容量)

A:8.5(終段のゲイン)

Cga:3.5pF + 0.5pF(6N6Pの仕様書より、0.5pFは配線容量)

これらの値を代入するといかのとおりです。

4.4p + 0.5p + (1 + 8.5) x (3.5p + 0.5p) = 42.9pF

■カットオフ周波数

1 / (2 x π x C x R)

C:42.9pF(上記で算出した値)

R:22.8k + 1.0k(12AY7の仕様書より、1.0kは終段グリッド抵抗)

これらの値を代入すると以下となります。

1 / (2 x 3.14 x 42.9E-12 x 23.8E3) = 156kHz

電源回路

初段にSRPP回路を採用する為、初段の電源電圧を高く設定する必要があります。終段は発熱量を抑える為に、電源電圧を抑える必要がありました。そこで今回終段の電源回路のみチョークインプット電源としました。

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本チョークインプット電源の負荷抵抗 vs 出力電圧とリップル電圧を観測結果です。

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アンプ回路と電源回路はこれで確定しました。次回は耐圧保護回路とシャーシ設計および製作のまとめを行います。

 

つづく(まとめ編2)