EL34シングルアンプ性能改善(設計編1)

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設計編1

終段をデュアルシングル構成から普通のシングル構成へ設計変更します。

設計変更方針

終段はEL34の普通のシングル構成としますが、その際に無理のない範囲で現状の出力を維持したいとおもいます。検討の中で、搭載している出力トランスRW-20はプッシュプル用としても使える事がわかり、いっその事プッシュプルへの改造も考えましたが、製作済みのプッシュプルアンプと比較して魅力となるポイントが見いだせなかった為、止めました。

終段ロードライン

現状の終段のバイアス電流は、真空管1本あたり37mAとしていました。設計変更にあたり70mAまで上げる事にしましたが、ロードラインは以下となります。

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このときの最大出力は以下となります。

3600 x (0.07 / SQR2)^2 = 8.9W

但し、ロードラインをみる限り電流をフルスイングする事はできない為、実際の最大出力は上記試算値よりもだいぶ小さくなります。尚、初段のロードラインは変更しません。

カットオフ周波数試算

設計変更後の終段入力部のカットオフ周波数を算出します。方法は前回の記事で現行アンプのカットオフ周波数を計算した方法と同じです。

■終段ゲイン

最初に終段入力部のミラー容量を算出するために終段のゲインを求めます。

μ x RL / (RL + rp) = 8.7 x 3.6k/(3.6k + 1.0k) = 6.8(16.7dB)

μ=8.7(EL343極管接続時の仕様より)

RL=3.6k

rp=1.0k(EL343極管接続時の仕様より)

■終段入力部容量

入力部の容量はCgkとミラー容量の和となるので、以下のとおりとなります。

Cgk + (1 + A) x Cgp = 1 + (1 + 6.8) x 14 = 110pF

Cgk=1pF(構想編1推定より)

Cgp=14pF(構想編1推定より)

A=6.8

■終段グリッドから見た前段の出力抵抗

初段のパラメータおよび終段のグリッド抵抗から以下のとおりとなります。

(rp || RL || rin) + rg = 47k + 1k = 48kΩ(||は並列接続を示す)

rp=80kΩ(12AX7仕様より)

RL=150KΩ

rin=490kΩ

rin=1kΩ(グリッド抵抗を1kΩに変更前提)

■終段入力部カットオフ周波数

終段入力部の特性を1次のLPFと考えると以下のとおりとなります。

1/(2 x π x C x R) = 1/(2 x π x 48k x 110p) = 30kHz

C=110pF

R=48kΩ

現状のカットオフ周波数約13kHzに対して設計変更により30kHzまで上げる事ができそうです。

回路設計

変更は終段の単純なシングル化とバイアス電流を37mAから70mAに上げる2点です。また上記試算でも採用した終段のゲート抵抗を2.7kΩから1.0kΩに変更します。これらを反映した修正回路図は以下のとおりです。

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この回路では、終段のカソードに接続された回路定数を見直して低域のカットオフ周波数も3.7Hzから1.9Hzに下げています。

1/(2 x π x C x R)

1/(2 x 3.14 x 100u x 430) = 3.7Hz(現行)

1/(2 x 3.14 x 470u x 180) = 1.9Hz(修正後)

この設計変更で必要な部品は180Ω(3W)2本と電解コンデンサ470uF/50V2個です。余った真空管ソケットは、予備の真空管の保存場所としたいとおもいます。

 

つづく(製作編1)

EL34シングルアンプ性能改善(構想編1)

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構想編1

過去に製作したEL34デュアルシングルアンプの性能改善を構想します。

EL34デュアルシングルアンプ

今回の改善対象は、バランス入力シングルパワーアンプ製作(2016-10-14~)で記事にしたシングルパワーアンプです。私がブログで公開した製作記事の中でBTLアダプタを除き、唯一バランス動作しないアンプです。真空管アンプ2台目の製作で、あまり理解が深まっていない時の設計の為、見直しをする事にしました。当時の製作の目的は、プッシュプルアンプとの比較で、その為に先に製作したEL34プッシュプルパワーアンプと極力部品を合わせました。この為に終段はEL34のデュアル構成となっています。

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初段は12AX7の差動アンプでバランス入力とし、終段への出力は差動アンプの片側から行っています。終段はEL34シングル構成を単純にパラレル接続しています。出力トランスはソフトンのRW-20を使ってスピーカーへバランス出力しています。

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真空管の並びはEL34ppアンプと同じで外側2本づつがEL34で内側2本が12AX7です。設計上の出力は7.6Wです。音はマイルドな感じで聴く楽曲によってはマッチしました。シャーシ内はこんな感じです。

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EL34シングルアンプ特性

製作後しばらくして発振器とポケットオシロの購入をきっかけに周波数特性の測定を行いました。(パワーアンプの周波数特性番外編7 2017-02-17参照)結果は以下のとおりです。

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FM放送の周波数特性のようです。マイルドな印象はこの特性に起因しているところが大きいとおもいます。マルチアンプシステムでは、この特性を考慮して一時期Mid-ch用のアンプとして使用しましたが、今ではEL34ppアンプ2号機がとってかわり出番がない状態となっていました。今回の製作では、終段を普通のシングルアンプ構成に変更して特性改善して普通に使えるシングルアンプにリメイクしたいとおもいます。

周波数特性考察

前回の製作で検討を行った手法で、現状のシングルアンプのカットオフ周波数を試算してみます。

■終段のゲイン

出力トランスは6Ω-2.7kΩタップを使用していますが、スピーカーのインピーダンスが8Ωのため、終段の負荷は3.6kΩとなります。出力トランスをデュアル駆動するため、真空管1本当たりの負荷は2倍の7.2kΩとなります。

gain = μ x RL / (RL + rp)

= 8.7 x 7.2k / (7.2k + 1.0k) = 7.6(17.6dB)

μ = 8.7

rp = 1.0k

RL = 7.2k

■終段入力部容量

Philipsの仕様書をみたところ、各ピン間の容量仕様が掲載されていました。

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この仕様から、EL34の3極管接続時の必要なピン間の容量特性を推定してみました。

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具体的には下記パラメータを推定値としました。

Cgk = 1p

Cgp = 14p

実際の容量はCgpがゲイン倍されるため以下となります。

Cgk + (1 + A) x Cgp = 1p + (1 + 7.6) x 14p = 121p

終段はデュアル構成の為、2倍の242pFと考えられます。

■終段入力から見た初段出力インピーダンス

(rp || RL || rin) + rg = 49.7k(||は並列を示す)

rp = 80k(12AX7の仕様より)

RL = 150k

rin = 470k

rg = 2.7k

■終段入力部カットオフ周波数

1 / (2 x π x C x R)

=1 / (2 x 3.24 x 242E-12 x 49.7E3) = 13.2kHz

上記の試算ですが、正しいか自信はありませんが、実測値に近い値となりました。次回は改造設計を行います。

 

つづく(設計編1)

無帰還広帯域真空管アンプ(まとめ編3)

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まとめ編3

通電、調整、特性測定、音の印象をまとめます。

終段バイアス電流調整

無信号時の終段真空管のIpを15mAに調整しました。Push-Pullの合計電流は、定電流回路を採用しているので、30mAとなるので比率のみの調整です。調整はシャーシ上面からバイアス設定基板上のボリュームで行います。

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調整結果は以下のとおりです。

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各部電圧

真空管の端子電圧の確認結果は以下のとおりです。

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周波数特性の測定

入力信号は、Hot/Coldともに200mVppの正弦波を入力しました。スピーカーターミナルには8Ωのダミー抵抗を接続しています。測定時の入出力波形は以下のとおりです。

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10Hzの出力波形はやや歪んでいますが、出力トランスの特性起因と考えられます。各チャンネルの周波数特性の測定結果は以下のとおりです。

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ゲインを正規化して、従来アンプとのカットオフ周波数比較を行いました。

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L/R-chともに周波数特性が改善したことが確認できました。高域の特性を1次フィルタと仮定して、シミュレーション結果と測定結果を比較しました。

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肩特性に少し差があるので、単純な1次フィルタ特性ではないようです。特性を1次フィルタ前提として、カットオフ60KHzと100KHz時の応答特性をシミュレーションしてみました。

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CD帯域内の周波数特性に殆ど差はありませんが、位相特性が改善しています。楽器や声の倍音の位相差を人間の耳が感知して音の印象の差として感じているのでしょうか?

試聴

マルチアンプに組み込んで音を聴いてみました。組み込んだシステムは以下のとおりです。

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従来アンプとのゲイン差は0.3dBなのでそのままアンプを入れ替えて聴いています。

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従来アンプ入れ替え時程の印象の違いはありませんでしたが、音の印象は変わりました。音が前に出る感じがします。また中域の音量が上がったように聴こえました。沢山のCDをとっかえひっかえ聴いてみましたが、概ね好印象でした。

今回の製作について

製作途中で大きな設計変更を2回行いました。1回目は初段の電源電圧を上げるために、初段用の電源回路を追加しました。2回目は初段SRPPの上側真空管のヒーターvsカソード間の耐圧保護回路を追加しました。どちらもシャーシに余裕があった為に大きな無駄がなく設計変更ができました。真空管アンプで初めて採用したチョークインプット電源も問題なく動作しています。

アンプ写真

完成したアンプの写真をいくつか掲載します。最初はリアパネルです。

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次はフロントビューです。

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続いて、リア側からの俯瞰です。

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最後はボンネットを被せた写真です。

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おまけはシャーシ内全景です。

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まとめのまとめ

構想開始が2020-12-11なので、完成までに半年以上かかってしまいました。途中で抜け出せない程の沼にはまってしまったかと思いましたが、原因がわかってみると単純なミスでした。結果もまずまずで、しばらくはこのシステムで音楽を楽しみたいとおもいます。長期間にわたりおつき合いいただきありがとうございました。

 

おわり(まとめ編3)

無帰還広帯域真空管アンプ(まとめ編2)

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まとめ編2

耐圧保護回路とシャーシ設計と製作のまとめを行います。

耐圧保護回路

SRPP回路採用時に注意が必要な点の1つは、等価抵抗動作をさせる真空管のヒーターとカソード間の耐圧です。下記は採用した12AY7の仕様の抜粋です。

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当初は、電源電圧と入力差動用真空管の電圧設計を厳密に行う事で対処できると甘く考えていました。電源投入時の過渡状態や、初段真空管故障時を考慮すると保護回路が必須と考え直して、製作の途中で設計変更を行いました。下記が保護回路の回路図です。

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初段差動入力用真空管のVpをモニタして耐圧仕様を越えるとヒーター回路を切り離します。下の波形は、電源投入時の過渡状態の動作波形です。

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青はリレー制御波形で黃が差動入力真空管のプレート電圧Vpです。Vpが88Vを越えたタイミングで、ヒーター回路用のリレーがオフし、ヒーター回路を切り離して耐圧仕様をクリアしました。やっつけで搭載した回路でしたが、実用上で問題は出ていません。実装基板は以下のとおりです。

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シャーシ設計

シャーシは、真空管アンプでいつも使っているリードのMK-380を選択しました。最初はフロントパネル設計です。従来の設計と代わり映えしませんが、秋月電子で角型の波動(ロッカー)スイッチの取り扱いを始めたので使ってみました。加工図は以下のとおりです。

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部品をとりつけるとこんな感じです。

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続いてリアパネル設計です。従来設計と変わりありません。

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LRパネルコネクタ用の穴あけ時にシャーシパンチを使用しましたが、間違った臼を使ってしまったため、穴の縁が凹んでしまいましたが、パネルコネクタを取り付けると隠れてしまうため事なきを得ました。

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シャーシ設計の最後は、上面の設計です。チョークインプット電源用のチョークコイルの配置を迷いましたが、電源トランスの手前にしました。入力用差動真空管への干渉を心配しましたが、特に問題はありませんでした。真空管の配置は、内側から差動入力用、SRPP等価抵抗動作用、終段真空管の並びとしました。製作途中で電源基板サイズを変更しましたが、シャーシの追加加工が不要となるように基板の取り付けを工夫しています。シャーシ上面の加工図は以下のとおりです。

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耐圧保護回路基板の取り付けは、製作途中で実物合わせで2点穴を追加して対応したので、加工図面には入っていません。写真は製作途中のものです。

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出力トランス

選定に紆余曲折ありましたが、結局前世代のツイーター用アンプと同じとなりました。出力トランスが春日無線のKA-5-54Pと東栄変成器のトランスケースSです。出力トランスは、ケースの直接取り付けしますが、加工図は以下のとおりです。

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写真は組立途中のトランスケースです。

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トランスケースをシャーシに取り付けるとこんな感じになりました。

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配線

今回の設計では、耐圧保護基板内で完結する5Vを除き、3系統の電源を搭載しました。配線の都合を考えて今回も配電用の平ラグ基板を経由しました。GND配線も多くなるため、電源トランス手前に取り付けたLラグを経由して配線しました。入力用の配線には、いつものとおり2芯シールド線を採用しましたが、真空管のグリッドへの配線は、Lラグを中継して2芯シールド線のテンションを受けています。写真は完成時のシャーシ内です。

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見栄えも考慮して直角に敷線してインシュロックで固定しました。

シャーシ内部写真

参考に各部の写真を掲載します。最初は電源基板です。

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次はチョークインプット電源の平滑用電解コンデンサとブリーダー抵抗です。

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最後は、終段バイアス電流回路基板です。

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定電流回路用の基準電圧源としてツェナーダイオードの変わりにLEDを使っています。次回は特性のまとめを行います。

 

つづく(まとめ編3)

無帰還広帯域真空管アンプ(まとめ編1)

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まとめ編1

今回から数回に分けて、本製作のまとめを行います。

製作の概要

無帰還広帯域のマルチアンプツイーター駆動用のアンプを製作します。真空管の選択は現行アンプと変えずに、初段にSRPP回路を適用して初段のゲインをかせぎつつ、出力インピーダンスを下げて終段入力部のカットオフ周波数を上げました。出力トランスの使用タップを変える事で巻き数比を下げて、出力トランスを含めた終段のトータルゲインを変えずに、終段のゲインを下げてミラー容量を減らしました。

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SRPP回路

下図はSRPP上側真空管の等価回路です。

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この等価回路からa-b2端子間の等価抵抗Rlと出力インピーダンスRoは以下のとおりとなります。

Rl = rp + (μ + 1) x rk

Ro = rp

rp:22.8kΩ(12AY7仕様書より)

μ:40(12AY7仕様書より)

rk:2.0kΩ(回路図より)

上記を代入すると以下となります。

RL = 22.8k + (40 + 1) x 2k = 105kΩ

Ro = 22.8kΩ

SRPP回路の真空管の選定(μとrp)とrkの設定により、Rlを高くして初段のゲインを稼ぎ、Roを小さくする事ができました。

ロードライン

何回かの試行錯誤を行った結果、各真空管のロードライン設計は以下のとおりとなりました。

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上から初段差動入力用真空管、SRPP真空管、終段真空管のロードラインです。このロードラインから8Ω負荷A級動作の最大出力は0.57Wとなります。

各段のゲイン

■初段ゲイン

以下の式で計算できます。

μ x RL / (RL + rp)

各パラメータは以下のとおりです。

μ:40(12AY7の仕様書より)

RL:105kΩ(SRPP等価抵抗値)

rp:20kΩ(上記の初段差動入力真空管ロードラインより)

これらの値を代入すると以下のとおりとなります。

40 x 105k / (105k + 20k) = 33.6 (30.5dB)

■終段ゲイン

同様に以下の式で計算できます。

μ x RL / (RL + rp)

μ:22(6N6P仕様書より)

RL:1.25kΩ(終段ロードラインより)

rp:2.0kΩ(上記終段真空管ロードラインより)

これらの値を代入すると以下のとおりです。

22 x 1.25k / (1.25k + 2.0k) = 8.5 (18.6dB)

■出力トランスゲイン

一次二次の定格抵抗値の入出力電力は同じになるため、以下の式でゲイン計算できます。

SQR(8 / 5k) = 0.04 (-28.0dB)

■トータルゲイン

上記ゲインを総合すると以下となります。

33.6 x 8.5 x 0.04 = 11.4 (21.1dB)

周波数特性

設計時にいくつかの回路でカットオフ周波数を試算しましが、最終的に設計は以下のとおりに落ち着きました。

■終段入力容量

Cgk + (1 + A) x Cga

Cgk:4.4pF + 0.5pF(6N6Pの仕様書より、0.5pFは配線容量)

A:8.5(終段のゲイン)

Cga:3.5pF + 0.5pF(6N6Pの仕様書より、0.5pFは配線容量)

これらの値を代入するといかのとおりです。

4.4p + 0.5p + (1 + 8.5) x (3.5p + 0.5p) = 42.9pF

■カットオフ周波数

1 / (2 x π x C x R)

C:42.9pF(上記で算出した値)

R:22.8k + 1.0k(12AY7の仕様書より、1.0kは終段グリッド抵抗)

これらの値を代入すると以下となります。

1 / (2 x 3.14 x 42.9E-12 x 23.8E3) = 156kHz

電源回路

初段にSRPP回路を採用する為、初段の電源電圧を高く設定する必要があります。終段は発熱量を抑える為に、電源電圧を抑える必要がありました。そこで今回終段の電源回路のみチョークインプット電源としました。

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本チョークインプット電源の負荷抵抗 vs 出力電圧とリップル電圧を観測結果です。

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アンプ回路と電源回路はこれで確定しました。次回は耐圧保護回路とシャーシ設計および製作のまとめを行います。

 

つづく(まとめ編2)

無帰還広帯域真空管アンプ(製作編41)

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製作編41

完成したアンプの音を聴いてみます。

音聴き準備

なごり惜しいですが、ボトムシャーシをねじ止めします。その前に各部の写真を撮りました。撮った写真の中でも、製作途中の設計変更で一番影響が大きかった部分は、耐圧保護回路の追加でした。

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でっち上げの回路ですが、最低限の機能(電源投入時の過渡状態の保護)は果たしています。次回採用する場合は、少なくともカウンタ機能を追加して、まだ経験していませんが初段差動真空管故障時に、ヒーター回路がオン、オフ動作を繰り返す事をなくしたいとおもいます。

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まだボンネットは付けません。

試聴1

最初はフルレンジスピーカーで音を聴いてみます。使用スピーカーは、Fostex FE103Enを使った自作のバフレススピーカーです。試聴のシステムは以下のとおりです。

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普段聴いているCDをセットして再生スタートしました。

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最初の音の印象はとにかく音の定位がいいです。普段はマルチアンプシステムで音を聴いているので、これはアンプによるところではないとおもいます。もともとFE103シリーズは、明るく元気な音調のユニットだとおもいますが、その印象がいい感じに聴きとれます。

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何枚かのCDを交換しながら聴きましたが、思いの外低音もいい感じで鳴っています。終段に採用したチョークインプット電源の効果でしょうか?FE103は小型スピーカーながら音圧レベルが比較的高い為、出力1Wに満たないこのアンプでも十分楽しめるレベルで音楽を鳴らす事ができました。一頻り音楽を楽しんだので、次はマルチアンプツイーター駆動用アンプとして音を聴いてみます。

試聴2準備

まずは現状のシステム構成で音楽を聴いて現システムの音を記憶しました。続いてHigh-ch用のアンプを入れ替えますが、マルチアンプシステムに組み込む為には、Lo/Mid/Higチャンネル間のレベルバランスをとる必要があります。

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写真はチャンネルデバイダのレベルバランス用のボリュームで、左がMid-ch、右がHigh-ch用です。歴代の各チャンネル用のアンプゲインの一覧表に、今回製作したアンプのゲインを追加してみました。

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表から現行のアンプとのゲイン差は0.3dBしかないので、そのまま入れ替える事にしました。入れ替え後のマルチアンプシステムのブロック図は以下のとおりです。

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マルチアンプシステムに組み込みに当たって、初めてボンネットを取り付けました。

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試聴2

マルチアンプシステムで音楽を聴くときのいつもの儀式、信号のソース側のユニットから電源を入れていきます。電源オンしてしばらく安定待ちをしてから再生をスタートさせました。最初は女性ボーカルとピアノのシンプルな楽曲ですが、女性ボーカルの声が前に出る印象です。別のCDに入れ替えたところ、中音域の音が厚く大きく感じました。CD帯域内のレベルにはほとんど差はないものの、位相特性の違いが音の印象の違いとして感じられているのではないでしょうか?今週末は、土曜にフルレンジシステムで、日曜にマルチアンプシステムで音楽をゆっくり聴きました。久しぶりに全く製作はしませんでしたが有意義な週末を過ごす事ができました。

完成写真

せっかくなので、何枚か完成写真を掲載します。はじめはシャーシ全景です。

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内側の2本の真空管が初段差動入力用で、その外側がSRPP真空管です。フロントの小さなトランス形状のものがチョークコイルです。続いてリアビューです。

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こちらはいつもの製作と代わり映えしません。真空管が点火するとこんな感じです。

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次回からは何回かに分けて本製作のまとめを行います。

 

つづく(まとめ編1)

無帰還広帯域真空管アンプ(製作編40)

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製作編40

今回の製作のキーポイントの周波数特性の測定をおこないます。

設計のおさらい

周波数特性の測定の前に、今回の設計のおさらいをします。初代ツイーター用アンプは、現行のスコーカー用アンプと同じ設計でした。

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初段は12AX7で終段はEL34のプッシュプル構成です。高域の周波数特性を意識せずに設計しました。二代目(現行)のツイーター用アンプは、回路は変えずに真空管を選定しなおして広帯域化しました。

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初段を12AY7に、終段を6N6Pに変更しています。この結果以下のとおり周波数特性が改善しました。

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音の印象も、特性差以上に変わりました。今回は二匹目のどじょうを狙う事が目的です。真空管の選定は変えずに、初段をSRPP方式の差動アンプに設計変更しています。

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初段の出力インピーダンスを下げて終段入力部のカットオフ周波数を上げる事を狙っています。その特性は以下のとおりです。

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狙い通りの結果となるか測定が楽しみです。

周波数特性の測定

測定は、200mVppの正弦波差動信号を入力して入出力の波形をオシロスコープで観測してゲイン測定を行いました。出力には8Ωのダミー負荷を取り付けています。

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測定周波数範囲は10Hz~1MHzです。最初にRchの測定を行いました。観測波形は以下のとおりです。

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黄色の波形は入力信号で、青の波形が出力信号です。上から10Hz, 1KHz, 20KHzのHot側の観測結果です。10Hzの波形はやや歪んでいますが、採用した出力トランス起因で仕方ありません。可聴帯域内の波形は振幅、波形歪みともに問題ありませんでした。参考に1MHzの観測結果も公開します。

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ゲインは下がり、位相も遅れていますが素直な波形です。Cold側も観測しましたが、Hot側の違いがなかったので省略します。Rchの観測結果をグラフ化してみました。

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グラフはHotとColdに加えて総合の特性の3本です。素直な特性だとおもいます。結果の検討は後回しとして、Lchの測定も同様に行いました。

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上からLchホット10Hz, 20KHz, 1MHzの観測結果です。Rchの結果とほぼ同じです。Lchの観測結果もグラフ化します。

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いい感じの測定結果です。RchとLchの特性比較もしてみました。

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Lchの方がやや特性が良いです。真空管への電源の配線長が短いからでしょうか?続いて現行のアンプと特性比較をしてみました。

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上がRch、下がLchの特性比較結果です。両チャンネルともに現行機に対して特性が良くなっている事が確認できました。特性を正規化してカットオフ周波数の比較をしてみます。

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両チャンネルともに30%以上帯域が延びている事が確認できました。低域の特性も若干改善している事がわかりました。出力トランスの使用したタップの違いによるものでしょうか?設計の狙いの周波数には達しませんでしたが、初段SRPP構成による帯域の改善が達成できました。次回は音を聴いてみます。

 

つづく(製作編41)