無帰還広帯域真空管アンプ(製作編39)

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製作編39

L/Rチャンネルのゲインを合わせて回路を確定させます。その後終段のバイアス調整を行い、真空管の各端子電圧の確認を行いました。

前回のおさらい

原因の特定に3週間もかけてしまったLch初段バランス動作不具合ですが、ようやく解決する事ができました。原因はさておき、ようやく先に進められます。対策完了時にL/Rチャンネルのゲイン測定を行ったところ、0.8dBの差がある事がわかりました。無帰還方式の宿命で、部品の特性差がそのままトータルゲインに影響を与えます。特性測定の前に、ゲイン差を減らす検討を行います。

L/Rゲイン差改善検討

余計な調整回路の追加は極力避けるために、真空管の組み合わせで改善検討を行います。幸いバランス動作不具合検討の中で、12AY7を2本追加購入したので、真空管の組み合わせによる改善検討の余地があります。具体的には、初段の差動入力用の真空管は固定して、SRPP等価抵抗動作する真空管の組み合わせを変えてゲインバランスを取ってみました。12AY7はトータル6本あり、そのうちの4本を使ってゲイン測定を行います。4本の真空管を便宜上No.1~No.4として確認を行います。前回の記事の測定結果をまとめ直してみます。

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Lchの真空管をNo.1、Rchの真空管をNo.4としています。従って未使用の真空管2本がNo.2とNo.3となります。最初にLchのNo.1真空管をNo.2と交換してみました。

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黄が入力波形で、青が観測波形です。上が初段出力確認結果で下がSP出力確認結果です。初段ゲインが29.6dBでトータルゲインが18.9dBで交換前とあまり変化しませんでした。さらに交換して確認を行い結果を表にまとめました。

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結局初期状態の真空管No.1とNo4をL/Rチャンネルで入れ替えてゲイン差を圧縮しました。その差は0.3dBです。まずはこの状態で様子を見てみます。

終段バイアス電流再調整

終段配線完了後に一度調整を行っていますが、全回路をFixできたので改めて調整を行います。観測が必要な回路部分にチップジャックを取り付けているので、そこにテスタのリードを接続して、無信号時の出力トランス1次側のドロップ電圧を観測するだけです。

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電源オンしてから安定するまで十分待ってから調整を行いました。調整結果は以下のとおりです。

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ほぼ設計値どおりの調整ができました。

真空管各端子電圧確認

以前にも測定を行いましたが、回路確定して調整も完了したので、全真空管の端子電圧の確認を改めておこないました。無信号状態で安定待ちを十分とってから測定を行いました。結果は以下のとおりです。

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結果で気になった点は以下のとおりです。

・L/Rchともに差動入力真空管のVpがHotとColdで3Vの差がある

・Lch差動入力真空管のカソード電位が0.64Vと設計値よりもやや小さい

・SRPP真空管のカソード電圧は72Vで耐圧保護電圧に対して18V余裕がある

次回は、今回の製作の1番のポイントの周波数特性の測定を行います。

 

つづく(製作編40)

無帰還広帯域真空管アンプ(製作編38)

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製作編38

引き続きLch初段差動アンプバランス動作不具合検討を行います。

光明

前回の検討のおさらいをします。この現象が終段真空管には関係ない事が確認できたため、終段真空管を外して検討を行いました。終段のバイアス調整回路接続をHotとColdで入れ替えた所、cold調整回路に現象がついてくる事が確認できました。改めてアンプの回路を掲載します。

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バイアス調整回路原因検討

写真は前回の記事で掲載した検討中のバイアス調整回路基板です。

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3極の端子台の右側が問題の出力です。この状態で端子台とその上の抵抗のリード間の抵抗値をテスターで測定してみました。力の加え片によって390kΩと数Ωの2つの数値が確認できました。以前の確認でも測定値がばらつきましたが、390kΩが読みとれた為にOKとしていた事を思い出しました。基板を取り外して確認を行います。

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写真センターが390kΩの両端で、下からの配線を左のリードにハンダ付けしていますが、右のリードにも接触しているように見えます。一旦ハンダを吸い取り、改めてハンダし直しました。

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修理した基板を再実装し、現象の確認を行います。バイアス調整基板は元どおりに接続し直しました。確認結果は以下のとおりです。

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何事もなかったように正常にバランス出力しています。

対策確認

終段の真空管を取り付けて改めて動作確認を行いました。

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上は200mV入力時の初段差動真空管のVp波形です。正しく差動動作ができています。下は無信号入力時の終段真空管の入力波形です。Hot, Coldともに同位相で変動しています。2つの波形のDCレベルの差はバイアス調整結果に起因します。なんともお粗末な結果で恥ずかしい限りですが、原因の特定に約3週間も費やしてしまいました。特定に時間がかかってしまった要因を今後の為に整理します。

・原因がゲートバイアス回路でハイインピーダンスだった事

・初段出力間にコンデンサが入り、DC的には問題がなかった事

・いもハンダの逆で基板温度が上がると金属の膨張によりショートした事

後で考えると、確認結果の中にいっぱいヒントが隠されていた事がわかりました。まだ修行が足りないです、やれやれ・・・。

ゲイン確認

全体のまとめに入る前に各段のゲインを確認します。確認はHot/Coldともに1KHz/200mVの正弦波を入力し、初段出力と出力の波形を確認しました。初めは修理したばかりのLchの確認を行います。

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波形は黄が入力波形で青が初段出力波形で、上がHot側で下がCold側です。どちらも200mVppの入力に対して5.92Vppの出力でゲインは29.4dBです。同様に入出力間の波形比較を行いました。

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上がHot側、下がCold側で、どちらも200mVppの入力に対して1.74Vpp出力となっています。ゲインに換算すると18.8dBです。上記の結果から、Hot側の確認でゲイン確認ができる事がわかりました。同様にRchのゲイン確認も行いました。結果を一覧表にまとめました。

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現状のL/R間のゲイン差は0.8dBあります。さてどのようにしてゲイン差を押さえ込みましょうか?次回はL/R間のゲイン差を抑える検討を行います。

 

つづく(製作編39)

無帰還広帯域真空管アンプ(製作編37)

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製作編37

引き続きL-ch初段がバランス動作しない原因の特定を行います。

前回のおさらい

改めて回路図を掲載します。

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前回の記事でL-ch終段Cold側のバイアス調整回路をカットすると正常動作する事がわかった事を報告しました。バイアス調整回路は単純で、-5V電源を使って終段のグリッド電圧を調整して終段のバイアス電流のバランスをとる回路です。回路の入力インピーダンスは390kΩ以上あるので、初段の出力に大きな影響を与えると事は考えにくいです。改めてバイアス回路の確認をしてみます。

バイアス回路確認

症状が発生する状態で入力信号を0にして、終段真空管のグリッド電圧をモニタしてみました。掃引速度は1.0s/divです。

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青がHot、黄がColdです。様子が全く異なります。仕方なので一旦バイアス回路基板を取り外して確認をしてみる事にしました。

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取り外した基板にユニバーサル電源で-5Vを入力してバイアス調整回路の確認をおこないました。

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ボリューム位置は動かさずに、出力電圧を確認しました。Hot側が-137mV、Cold側が-353mVで問題なく機能していました。上で確認した入力0時の終段グリッド電圧波形の違いは、どうやら初段のHotとColdのゲインの差に起因していると考えると辻褄があいます。バイアス調整回路基板には問題がなさそうなので、シャーシに再実装しました。同様の信号をR-chでもモニタしてみました。

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Hot/Coldともに同相で振れている事がわかります。L-chの各部の信号をモニタしていたところ、たまたまバイアス回路は切り離さずに正常状態になった為、終段のグリッド電圧波形をモニタしてみました。

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電圧感度が上の観測の1/2の200mV/divとなっていますが、R-chと同様の波形が観測できました。以上の確認から終段バイアス調整回路は実装状態でも正しく動作している事が確認できました。次はHotとColdの調整回路を入れ替えてみたいとおもいますが、終段のバイアス電流がアンバランスとなってしまうので、終段の真空管を外して確認をしてみます。

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まずはこの状態で、症状が再現する事を確認しました。確認は入力信号を200mVppとして初段差動真空管のVp波形をモニタします。

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波形を2つ掲載していますが、上が終段を外した直後に確認して結果です。症状が起こらなかった事から、この現象は終段真空管にも影響を受けていると複雑な気分で、各部電圧の確認を行ったところ、下の波形のとおり症状が発生しました。上波形は、回路に刺激を与えると正常動作する事が確認されていましたが、この事例が発生したようです。

終段真空管なし確認

終段の真空管なしで原因検討できる事がわかったので、まずは終段バイアス調整回路接続のHotとColdを反対にしてみました。

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この状態で症状の発生の有無を確認してみます。確認は今までと同様に200mVppの信号を入力して、初段差動真空管のVp波形をモニタします。結果は以下のとおりです。

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なんと見事にバイアス調整回路出力に現象がついてきました。この状態でHot側の調整回路接続を外してみます。

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こ時の結果は以下のとおりです。

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正規接続時と同様にHot/Coldともに正常動作をする事が確認できました。これらの結果から原因は終段バイアス調整回路Cold出力にあるとしか考えられません。今まで何度も確認したのに・・・?次回も引き続き初段差動回路バランス動作不具合の検討を行います。

 

つづく(製作編38)

無帰還広帯域真空管アンプ(製作編36)

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製作編36

引き続きL-ch初段のバランス動作不具合の検討を行います。

前回までのまとめ

・L-chのトータルゲインが小さい原因はCold側のゲインが小さい事に起因

・Cold側のゲインが小さい事は、初段の差動アンプがバランス動作しない事に起因

・初段差動アンプがバランス動作しない原因は差動真空管のカソード電圧の振れ起因

・左右の真空管を入れ替えても本現象はL-chでのみ発生する

・L-ch初段CRDを交換しても症状は変わらない(記事では未報告)

・回路に刺激を与えると正常動作する事がある

状況は掴めてきましたが残念ながら対策に繋がる原因の特定はできていません。

SPRRのrkの影響確認

前回の確認でSRPP等価抵抗真空管動作は問題なさそうな事を確認しましたが、念のためrkの影響確認を行います。改めて回路図を掲載しますが、初段SRPP回路の2kΩの抵抗です。

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Hot側の波形モニタをしていると正常動作する事があった事から、Hot側のrkに抵抗は並列接続して様子を見てみます。最初は27kΩを並列接続してみました。rkは1.86kΩです。

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観測条件は以前と同様に200mVppの信号を入力しています。波形は初段差動真空管のVpで黄がHot、青がColdです。写真上がオリジナル状態で下がhot側のrkを1.86kΩに変えた時のものです。症状は変わらずに、変更に伴ってHot側のVpの振幅が9.6Vppから9.0Vppに下がっています。さらに並列抵抗を15kΩに下げて確認してみました。rkは1.76kΩとなります。

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写真上は初段差動真空管のVpの電圧です。症状はかわらずに、抵抗値変更に伴って振幅レベルが下がっています。写真下は同条件時の初段差動真空管のカソード波形です。黄がカソード波形で88mVppで振れています。予想どおり上記の結果からSRPP等価抵抗回路は正常動作してそうです。

終段の影響確認

次は終段の影響確認をしてみます。初めにL-ch初段Cold回路の出力を切り離してみます。具体的には、カップリングコンデンサの接続を外してみました。

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見栄えは悪いですが、確認オンリーなのでこれで進めます。同様の条件で初段差動真空管のVp波形をモニタしてみました。

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あらら、見事に正常動作しています。一旦カップリングコンデンサの接続を戻して次はCold側の終段バイアス調整用の配線をカットしてみました。

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結果は以下のとおりです。

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写真のとおり正常動作を確認しました。念のためCold側ヒーター回路耐圧保護回路の入力配線を外してみましたが、症状は改善しませんでした。本現象は、初段Cold側の出力の負荷に関連して発生している事が解りました。しかし新たな事実がわかってもちっとも嬉しくありません。それは解決する方法が思いつかないからです。

初段真空管端子電圧比較

Cold側の終段バイアス調整回路接続をカットすると初段は正常にバランス動作する事がわかりました。これを利用して、正常時と異常時の初段真空管の各端子電圧の比較を行なってみます。測定時は無信号入力状態です。

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まず目についた差は差動真空管のカソード電位の違いです。正常時は異常時に比べて0.1V高くなっています。その結果差動真空管の入力電圧Vgが正常時の方が若干大きくなりIpが減少すると考えられます。差動真空管のプレート電圧が正常時の方がやや高くなっている事とつじつまが合います。等価抵抗動作真空管のrkの両端電圧(3pinと2pinの差)を見ると正常時はHot/Coldは同じ電圧となっていますが、異常時はなぜかCold側の方が大きくなっています。別途rkの両端電圧を各状態で確認してみたいとおもいます。次回も引き続きL-ch初段差動アンプがバランス動作しない原因の検討を行います。

 

つづく(製作編37)

無帰還広帯域真空管アンプ(製作編35)

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製作編35

引き続きL-ch初段がバランス動作をしない原因の検討を行います。

初心に立ち戻り

前回の検討でL-chのCold側のゲインが小さい原因は、初段の差動アンプが正しくバランス動作をしていない事に起因する事がわかりました。たいそうなサブタイトルを付けてしまいましたが、一番の疑問点はなぜL-chの初段のみが狙った動作をしないかです。L-ch初段の真空管を新規に購入したものと交換して確認しましたが、状況に変化はありませんでした。この症状が真空管の特性に違いに起因するか、ダイレクトに確認するには、L-chとR-chの真空管を入れ替えてみる事が一番単純で明快な方法です。まずは、初段差動入力用の真空管を入れ替えてみました。入力は従来の確認のとおり200mVppのバランス信号です。

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黄色が入力信号で、青が差動真空管Cold側のVpです。上がL-chで下がR-chですが、症状に全く変化がありませんでした。次に終段の真空管の影響を確認します。交換した初段差動真空管は元に戻して、終段の真空管を左右チャンネルで入れ替えました。

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測定条件は初段差動真空管交換時とかわりません。上がLchで下がR-chです。残念ながら症状は全く変化しませんでした。この状態で念のためR-chのHot側の確認も行いました。

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R-chはHot側も状態に変化はなく、問題なく動作している事が確認できました。さらにこの状態で初段の等価抵抗動作している真空管を左右チャンネルで入れ替えてみます。結果は以下のとおりです。

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2つの波形は初段差動真空管のVpで黄色がHot、青がColdです。写真上がL-ch下がCold側で症状に変化はありませんでした。ここまで確認して症状に変化がない事から、本現象は真空管の特性のばらつきによるものではなく、他の要因起因と考えざる得ません。

初段SRPP等価抵抗回路確認

改めて初段のSRPP回路の確認を行います。等価回路を描いてみました。

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計算を簡略化する為に終段の入力抵抗RL=∞とします。

V = rp x Ip + μ x Vg + rk x Ip

Vg = rk x Ip

上記の2つの式から

V = rp x Ip + μ x rk x Ip + rk x Ip

V = Ip x ( rp + μ x rk + rk )

等価抵抗Zは以下のとおりです。

Z = V / Ip = rp + ( μ + 1 ) x rk

ここでμ=40, rp=28k, rk=2kを代入するとZ=108kΩとなります。終段入力側から見た出力インピーダンスは、等価回路からrp = 28kΩとなります。上記の結果を頭に入れて200mVpp入力時のRkの両端電圧をモニタしてみました。

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黄色がSRPP真空管カソード側で青が差動真空管プレート側です。上の波形がHotで下がColdです。この結果を見る限りSRPP等価抵抗回路は正常動作しているように見えます。前回確認した差動アンプのカソード電圧が振れる事によりHot/Coldの実質の入力電圧に差が生じてその結果差動アンプのIpがアンバランス動作をしていると考えられます。本日の結果は前進が全くない事から、泥沼に足を突っ込んでしまっているように思えてきました。次回も検討の続きを行いますが、本件解決できるか自信がなくなってきました。

 

つづく(製作編36)

無帰還広帯域真空管アンプ(製作編34)

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製作編34

引き続きL-ch Cold側の初段ゲインが小さい原因の検討を行います。

閑話

完成後の動作確認がうまくいかない中、本日は会社の変電設備法令点検立ち会いの為休日出社しました。前任者は本年3月に定年退職されので今年から私が引き継ぎました。数年前にとった電験三種の資格が初めて役にたちます。具体的な点検作業は出入りの業者が行い、電源遮断前の準備と復電後の設備の再立ち上げおよび確認のみです。点検中は、ノートパソコンはバッテリーで動作できますが、ネットワークが使えない為、間がもちません。週明けの会議用資料はすぐに完成してしまったので、今後の製作のネタ検討をして検査終了を待ちました。予定よりも早く完了し、15時に解放されました。やれやれ。

前回のおさらい

L-chの初段真空管を新たに購入したものと交換しましたが、症状に変化はありませんでした。検討を行っている中で、Hot側のRkのまわりの波形を観測した場合に、なぜか症状が改善する場合がある事を見つけました。まだこの事象を原因検討には繋げられていません。

初段差動アンプ確認

症状発生時の動きがまだ理解できていない状態です。未確認の初段差動アンプまわりの信号確認を行います。初めに差動アンプのカソード電圧を確認してみました。

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青の波形が初段差動入力用真空管のカソード波形です。なぜか100mVppで変動しています。黄色の波形はCold入力波形で200mVppです。赤の波形は両波形の差信号です。この差信号がCold側真空管の入力信号となるため、実質の入力レベルは100mVppとなっている事がわかりました。同様にHot側のレベル確認も行います。

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Cold側とは逆に、実質の入力信号が大きくなっています。これらの結果から、差動アンプがバランスした動作をしていない事がゲインが小さくなっている要因と考えられます。真空管が理想特性とすれば、バランス動作をしなくてもゲインはかわらないとも考えられます。バランス動作をしていない原因として最初に疑ったのは、初段の定電流ダイオードがダメージを受けている可能性です。但し、初段のバイアス電流のトータルは約2mAの確認ができているので、静特性は問題ないと考えられます。まずは電源オンまたはオフ時に定電流ダイオードに過電圧がかかっていないか確認をしてみました。下記波形は、両チャンネルの初段差動アンプ真空管のカソード電位の遷移です。

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両チャンネルともに、電源オンで-5Vとなり、真空管のヒーターが暖まりプレート電流が流れ初めて最終的に0.5V付近で安定します。この波形は想定どおりでダメージを与えるようなものではありませんでした。同様に電源オフ時の電位の遷移も確認しました。

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電源オフでカソード電位が少し上がるものの問題となるレベルではありませんでした。

症状の整理

・初段のHotとColdのアンバランス動作により各相のゲインが異なっている

・HotとColdの入力レベルが同じにもかかわらず初段がアンバランス動作する原因は、

 初段差動アンプ用真空管のカソード電位の振れに起因する

・Hot側初段Rkまわりをオシロのプローブでつまむと、症状が改善する場合がある

なぜ初段動作がアンバランス状態で安定動作をしてしまうかが対策のキーと言えます。原因検討に行き詰まってしまったので続きは次回検討します。

 

つづく(製作編35)

無帰還広帯域真空管アンプ(製作編33)

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製作編33

引き続きL-ch初段Cold側のゲインが低い原因の検討を行います。

真空管の交換

前回、L-chの初段差動入力用の真空管の交換を行ってみましたが、症状に変化はありませんでした。今回は、初段の等価抵抗動作をする真空管を交換してみます。組み合わせが複雑にならないように、初段差動入力用の真空管を元に戻し、交換確認を行った真空管を、等価抵抗動作する真空管と入れ替えました。早速、初段Cold側のRk(2kΩ)の両端電圧の確認を行いました。結果は以下のとおりです。

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残念ながら全く変化がありません。チェンジニアになるとほぼ思考が停止します。この状態で、いろんなポイントをオシロで波形観測しているときに、症状が改善する場合がある事を見つけました。下記は入力200mVppでch1がHot側終段入力波形、Ch2はCold側初段のプレート電圧波形です。

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ch2のcold側初段プレート波形は症状発生時、1Vpp出力ですが、ほぼHot側同レベルの約10Vppの波形となっています。ch1の観測ポイントを変えると、また症状が発生します。原因特定につながる大きなヒントですが、まだ原因にたどり着く事はできませんでした。原因の検討に息詰まってしまったので、矛先を変えて耐圧保護回路の動作検証を先に行う事にします。

耐圧保護回路動作確認

改めて耐圧保護回路の回路図を掲載します。

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ch1で初段差動入力真空管のプレート電圧をモニタし、ch2でヒーター用リレーの制御信号をモニタしてみました。オシロスコープの掃引速度を下げて(10s/div)スクロース状態にして電源オンしました。

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リレー制御は行われているものの、動作電圧が設計値どおりではありません。ヒーター回路が切り離される電圧は120Vで、12AY7の定格値を越えています。復帰電圧は80Vで動作のヒステリシスが大きすぎます。このまま電源オン動作を繰り返すと、時間は短いとは言え、定格値を越えているため、真空管を壊してしまします。取り急ぎ基準電圧を2.1V(判定電圧80V)に調整し直して電源オン時の確認をしてみました。

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結果は、リレーオフ電圧が約100Vに下がりましたが復帰電圧も同様に約60Vまで下がってしまいました。この状態でも真空管の定格を越えてしまっています。そもそも判定回路の時定数が大きすぎる事が問題です。耐圧保護回路基板を取り外さずに済まそうと考えましたが調整でごまかせるしろものではありませんでした。意を決して耐圧保護回路の時定数の見直しをします。現状は10uFの電解コンデンサと、充電時は1MΩの抵抗で時定数が決まる為、10sとなっています。これを在庫の関係で0.022sにしてみます。もう一度耐圧保護回路基板を取り外す事になるとは・・・とほほ。なんとか4本の10uFの電解コンデンサを0.022uFのフィルムコンデンサに交換しました。

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交換後の基板をシャーシに取り付けて、基準電圧を2.36Vに調整し直し電源オンしてみました。結果は以下のとおりです。

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設計どおり90Vを境にリレー制御されている事が確認できました。念のため電源オフ時の波形も確認しました。

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電源オフで安定状態で即座にリレーがオフするので、耐圧の心配がない事が確認できました。淡い期待を抱き、この状態でL-ch Coldの初段ゲインの確認を行ってみましたが、何ら変化はありませんでした。次回もゲイン不具合の検討の続きを行います。

 

つづく(製作編34)