2017真空管オーディオフェア(番外編13)

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番外編13

前回につづいて、2017真空管オーディオフェアのレポートをします。

講演3

「オープンテープからデジタル録音のヒストリィ」のタイトルで加藤しげき先生の講演でした。

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企画はラジオ技術を発行しているアイエー出版です。サブタイトルは「フィールド録音から大ホールのビッグバンド録音まで」です。講演の紹介の前に恒例の再生システムの紹介をします。ラインアンプはマックトンのXX-5000です。2017年に発売された新製品です。

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パワーアンプもマックトンのMS-1500です。真空管アンプでありながら150W+150Wの出力を出すことができ、広い会場のデモにも安心して使用することができます。

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スピーカーは、講演1でも使用されたフォステクスのG-2000aです。能率90dB/Wmですがマックトンのパワーアンプが出力でカバーします。

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この講演はタイトルにもあるとおり、録音に焦点を当ててデモが行われました。私のオーディオの原点は小学生時代に買ってもらったビクターのモノラルラジカセRC-1000から始まった事もあり、録音に関しては他とは違う思いがあります。(RC-1000の写真を「ラジカセは少年の憧れだった」でみつけました。)

事前に配布されたデモのリストには、タイトル、使用楽器の他、録音形式、録音機、録音日、場所の情報が記載されていました。それでは加藤先生の講演を紹介します。

■Someday You'll Be Sorry

自己紹介もかねて選曲されたものと思われます。録音日は1998年11月でパイオニアの業務用DAT、D-9601にAIR-1を組み合わせて24bit/96KHzフォーマットで録音されたものです。加藤先生は、デジタル録音の際には今でこそ普通ですが、初期から24bit/96KHzのフォーマットにこだわってきたそうです。19年前の録音ですが、時代を感じさせない仕上がりでした。

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■Moanin'(Art Blakey In Japan)

録音日は1961年1月でAMPEX A-350を使ってモノラル録音されたものです。A-350は2スピード38cmフルトラックのオープンリールテープレコーダーです。マルチマイク録音をされたとの事ですが、コンデンサーマイクの音は良いが、当時はまだ信頼性が低く録音途中でノイズの発生を心配してドラムにのみ使ったとおっしゃってました。使用したマイクはSonyの37Aです。全くノイズはなく、ドラムもクリアに録音されていました。

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■Strolling Doggy

録音日は1959年6月です。録音機はTRK330/339です。TKRはテープレコーダー研究会の頭文字だそうで、この録音機のトランスポートは、この研究会が定期的に郵送配布する部品を個人が組み立てて完成させたものだそうです。現在のディアゴスティーニのようなシステムでしょうか?但し、アンプはそれぞれが自作して組み上げる必要があったそうです。テープレコーダー研究会についてネットで調べたところ、個人のブログにいくつかヒットしました。個人の入会も可能だったそうで、当時高嶺の花だったテープレコーダーを少しでも安く手に入れたいために入会された方もいたようです。TKR330の写真も探してみましたが、いいものがなく、下記個人ブログの録音現場の写真にそれらしいものを見つけました。「のだっちNEWS 2nd」の2006年4月20日のブログ中の写真です。参考にURLをシェアします。

http://xps.jp/~nodachi/newpage17.htm

音は古い録音にもかかわらず、生き生きした演奏が再現されました。講演の後で、TKRについて調べていると私の子供の頃のオープンリールテープレコダーへの憧れの気持ちが蘇りそれだけでも貴重なデモだと感じました。

■鉄道ドキュメント碓氷峠に挑むED42

録音は1959年8月で、旧信越本線熊の平ED42スイッチバックを録音したものです。この音源はFMで放送されたものの素材のため、ナレーションも入っていました。録音機はTRK自作デンスケで、19cm/2trです。熊の平での録音はいろんなチームがトライしたそうですが、総じて失敗したため貴重な録音になっているそうです。失敗した理由は熊の平駅付近に変電施設があり、その影響でマイクがノイズを拾ってしまう為だそうです。逆にこの録音が成功したのは、使用した録音機の録音時のEQ特性をクリスタルマイクの特性にたよっていて、結果的にノイズに強いマイクが選択された為との紹介がありました。録音時の苦労話として、使用した録音機はゼンマイ式でアンプ系のバッテリーは30分程度保ちますが駆動用のゼンマイは5分で切れてしまい、追巻きをするとノイズが入ってしまう事を紹介されていました。今では想像もできない現場の状況です。肝心の音ですが、ひぐらしの鳴き声からスタートし、機関車が近づき、けたたましい汽笛、物売りや乗客の声など、すごく懐かしい感じで聴くことができました。

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■まとめ

上記以外、東通工(現ソニー)のKP-3録音機を使ったもの、TASCAM 38HRの8トラック全てを使って24bit/96kHzで録音されたもの等、貴重な音源を沢山聴くことができました。記事を書いていて、改めて同じ講演をもう一度聴いてみたいと強くおもいました。少ないながらも録音機知識を得た後では、もっと違った聴き方できると思います。

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講演4

タイトルは、「ホーン型スピーカーと真空管アンプによる至福の世界」で新忠篤先生の講演です。企画はステレオサウンド社です。

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デモの目玉はGIPラボラトリーの12インチフルレンジユニットGIP-4165を使ったスピーカーシステムです。

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このスピーカーは、GEが1934年に発表した励磁型12インチフルレンジスピーカーTIA4165を忠実に復元したものです。デモの開始前にGIPラボラトリーの代表鈴木さんから復元時の苦労話が紹介されました。

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コーン紙の配合からスタートし、ブラインドテストで差が感じられなくなるまでに50回以上の試作を繰り返したとのことです。フィールド電源として7V/0.8Aが必要となりますが、励磁型スピーカーの音を聴くのは初めてなんので楽しみです。このユニットがフロントロードホーン+大型バッフルに取り付けられ、必要はないとのコメントがありましたが、今回はツイーターが乗せられていました。今回使用のバッフルサイズでは低域は40~50Hzくらいは出ているとのことでした。

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組み合わせられるパワーアンプは新先生製作のWE300Bプッシュプル単段アンプです。1部のデモの選曲は雑誌「球管王国」の試聴に使われるリファレンス音源からです。

■ビバルディーバイオリン協奏曲ホ短調RV.281第一楽章

音の印象は、中域が明瞭で低音が厚いです。

ムソルグスキー組曲展覧会の絵」バーバ・ヤーガの小屋

音源はステレオサウンドリファレンスCD第1段SSPH-3001です。音はスケール感が大きく、音が良く響きます。劇場で音楽を聴いているような雰囲気です。

美空ひばり「影をしたいて」

録音は1965年と古いですが、左右に定位するアコスティックギターの伴奏と、美空ひばりの歌声が生々しく再現されました。

デモの音は全般的に良く響き心地よいものでした。まだデモは続きますが、紹介は省略させていただきます。

まとめ

1週前のインターナショナルオーディオショウとは異なり、手作り感が満載で、客層も異なりとにかく大半が元気な年輩の方でした。この中に入ると私なんか若者の部類に入ります。2週に渡りオーディオイベントを見てきましたが、それぞれ違った観点で楽しむ事ができました。

 

おわり(番外編13)