構想編1
1000MマルチアンプシステムのHighチャンネル用アンプの設計を構想します。
マルチアンプシステムその後
EL34A級ppアンプが完成し、久しぶりにゆったりと音楽を楽しんでいます。Midチャンネルと、Highチャンネルのレベルは、オーバーオールの周波数特性測定で決めたレベルよりもやや上げています。
測定時は、スコーカーとツイーターの中間位置の正面約1mにマイクロフォンを設置しましたが、リッスニングポジションはスピーカー正面直線上から外れるため、再調整した方が聴感上バランスが取れている感じがします。色んな楽曲を聴いているうちに、今までLowチャンネルとMidチャンネル用アンプの改善をしてきた事もあり、Highチャンネルが負けている感じがしてきて、改善検討をしてみたくなりました。
Highチャンネル駆動アンプ
現状はEL34A級ppアンプ1号機を使っています。設計は2号機とほぼ同等です。どちらも無帰還構成で使用している為、高域特性はあまり良い意味ではない「そこそこ」のレベルです。
カットオフ(-3dBダウン)周波数は約50KHzで、20KHzまではほぼフラットな状況ですが、位相は遅れているはずです。仮に1次フィルタ(-6dB/oct)特性と仮定して2号機の周波数特性に線を引いてみました。
肩特性は-6dB/octとなっている事が確認できました。
位相特性
-6dB/oct、カットオフ周波数50KHz時の位相特性を確認してみます。ネットを検索したところ、大川電子設計様がフィルターの設計ツールをネット上で公開しているのを見つけました。上記の条件を入力するとボード線図が表示されます。グラフイメージの使用は許可されていましたので算出結果を掲載します。
この時の20KHzの位相遅れ量は約22deg.で、ちょっと気になるレベルです。次はこの特性はどこで決まっているか検討してみます。
出力トランスの特性
2台のEL34ppアンプともに、出力トランスはソフトンのRX-40-5を使用しています。下記はネットに掲載されている周波数特性です。
グラフは1dB/divの為、変化が大きく見えますが、高域のカットオフ周波数は100KHz以上です。一旦、出力トランスは影響の候補から外します。
真空管入力容量影響
真空管の入力(グリッド)には入力容量があり、前段の出力インピーダンスとの組み合わせでフィルターを構成します。以前製作したEL34パラレルシングルアンプは、終段の入力容量の考慮をなにもせずに設計したため、高域のカットオフが15KHzとFM放送並の特性となった事を思い出し、この部分の影響に違いないと思いました。カットオフを計算するため、終段から見た初段の出力インピーダンスを算出します。図は初段の等価回路です。
rpは初段管12AX7の内部抵抗で、使用条件から80KΩとします。RLは初段の負荷抵抗で150KΩ、Riは終段のバイアス調整回路の抵抗で330KΩです。参考に回路図を再掲載します。
終段の入力から見ると全ての抵抗が並列接続されるため、等価出力抵抗値Roは約45KΩとなります。次にEL34の入力容量を出します。入力容量はグリッドとカソード間の容量Cgkにグリッドとプレート間のミラー容量の加算値となります。ミラー容量は、グリッドとプレート間の容量をCgp、終段管の裸利得をAとすると以下のとおりとなります。
ミラー容量 = Cgp x (A + 1)
従って、終段の入力容量は以下となります。
終段入力容量Cin = Cgk + Cgp x (A + 1)
この入力容量と初段の出力インピーダンスRoで1次ローパスフィルタが形成され、カットオフ周波数は以下となります。
fc = 1 / (2π x Cin x Ro)
カットオフ周波数を計算するためにEL34の仕様書からCgkとCgpに相当するパラメータを拾ってみました。各社の仕様書にはだいたい15.5pF, 10pF, 1pFの3つの数値が掲載されていたので、適当に式に代入して計算してみましたが、カットオフ周波数が50KHzとなりません。改めて回路図を眺めてみたところ終段は3極管接続されている事を忘れていました。
改めて各社の仕様書を見てみましたが、3極管接続時の容量値は見つけられませんでしたが、そんな中Philipsの仕様書を見たところ以下の記載がありました。
この説明を私なりに解釈し、必要な電極間の容量は以下と仮定してみました。
この図からCgk=8pF, Cgp=8pFと考えられ、カットオフ周波数を計算しなおした所、約49KHzと測定結果と見事に一致しました。(A=7は「EL34ppアンプ製作2設計編1」2019-11-29参照)本当に正しいか自信はありませんが、私なりの理解としたいとおもいます。次回はこのカットオフ周波数改善の検討をしたいとおもいます。
つづく(構想編2)